2023年のドラフト全体1位でサンアントニオ・スパーズから指名されたヴィクター・ウェンバンヤマは、ルーキーシーズンに平均21.4点、10.6リバウンド、3.9アシスト、1.24スティールにリーグトップの3.58ブロックを残し、新人王に輝いた。

 チームはウエスタン・カンファレンス14位の22勝60敗(勝率26.8%)に終わり、5シーズン連続でプレーオフから遠ざかっている。それでも、オールスター前にリーグワースト3位の11勝44敗(勝率20.0%)だったところから、球宴後にはリーグ22位の11勝16敗(勝率40.7%)まで勝率を上げており、来季以降に期待を抱かせた。

 ルーキーながら攻守で奮闘したウェンバンヤマは、新人王とオールルーキー1stチームに選ばれただけでなく、新人としてはNBA史上初のオールディフェンシブ1stチームに名を連ねている。
  224cmの高さと240cmのウイングスパンを持つ20歳の若きビッグマンは、シーズンを通じてこれまでの常識を覆すような圧巻のプレーを披露。通常であればインバウンドパスのはずが、空中でそのまま受け取ってアリウープダンク、クロスオーバードリブルからステップバックスリー、“シャムゴッドムーブ”で相手を交わして鮮やかなフィンガーロールでフィニッシュするなど、話題を振りまいた。

 単なるセンターとは思えぬ異次元なプレーの数々。その一役を担ったのが、“Jクロスオーバー”の愛称で知られるジャマール・クロフォード(元ロサンゼルス・クリッパーズほか)だ。ストリートボールで培ってきたスキルをNBAに持ち込んで20年のキャリアを歩んだ男は、今年2月のオールスター期間中にもウェンバンヤマとワークアウトをしていたことで知られる。

 現地時間6月19日に公開された番組『Dan Patrick Show』へ出演したクロフォードは、ウェンバンヤマとの関係についてこう話していた。

「今シーズンの初めまで遡るね。彼はすでにいくつかクレイジーなムーブをしていた。そこで彼に聞いてみたら『もうここ数年ずっとやっている』と返ってきてね。オールスター期間にも僕らは(コート上で)遊んだんだ。そこでいくつかフリースタイルの動きを見せてから、僕らの関係が始まったんだ」「ラップアラウンドムーブ(身体の内側にドリブルしている腕を巻き込んでいくプレー)を見せたんだ。背の高いガードで、腕の長い選手たちがやるんだけど、彼はそれを次のレベルへ引き上げてくれると思ったね。面白かったのは、彼に僕のスキルを披露したら、コートにいたルーキー、2年目の選手たち全員から視線を浴びて、彼らがシューティングを止めてしまったんだ」

 NBAという世界最高のプロバスケットボールリーグでも、持ち前の自在なボールハンドリングスキルを駆使してディフェンダーを惑わしてきたクロフォードは、歴代有数のハンドラーの1人と言っていい。そんな選手が稀代の大型新人に直接レクチャーしたのだから、注目を集めないわけがない。
  今季、スパーズのポイントガードは主にトレ・ジョーンズが務めていたが、クロフォードはオフにベテランの司令塔を加える案に賛成していた。

「それは絶対いいことだ。彼(ウェンバンヤマ)はものすごくユニークなタレントで、コートのあらゆるところで起用できる。ボール運び、ミッドポスト、ポストアップでもね。トランジションからスリーも打てるし、もうなんでもこなせるんだ。あの男は想像を膨らませてくれるのさ」

 現在は自国開催のパリオリンピックに向けて、ワークアウトを続けているウェンバンヤマ。つい先日も自身のソーシャルメディアにクロフォードとのワークアウトに励む写真を投稿していたことから、五輪、あるいは来季のNBAで、新たなスキルを披露してくれるかもしれない。

文●秋山裕之(フリーライター)