小芝風花が主演を務める「波よ聞いてくれ」(毎週金曜夜11:15-0:15ほか、テレビ朝日系)。同作で片寄涼太演じる中原忠也が主人公のスピンオフ「波風よ立ってくれ」がTELASA(テラサ)にて、また原菜乃華演じる南波瑞穂が主人公のスピンオフ「荒波よ揉んでくれ〜南波瑞穂のAD奮闘記〜」がTverにて配信中だ。毎話予想のつかない展開で話題を集める本編の魅力と、上記2作品の見どころを紹介する。


■ドラマ化成功はその意外な配役にあり!
同ドラマは、彼氏にフラれた上にお金まで騙し取られ、やけ酒を飲んで愚痴をこぼしていたら、見ず知らずの男性にラジオパーソナリティーとしての素質を見出され、あれよあれよという間に深夜ラジオで冠番組を持つことになる鼓田ミナレが主人公。またその冠番組の内容が、“殺人架空実況”に幽霊が出る部屋への突撃レポート、ストーカーへの公開生説教……と普通ではなく、毎回カオスな展開にミナレは巻き込まれていくのだ。しかし、そんな中でミナレが少しずつパーソナリティーとして成長し、彼女を取り巻く円山ラジオ局(MRS)のスタッフたちがラジオにかける情熱も浮かび上がってくる、史上初のラジオ×テレビのメディアミックス新感覚コメディーとなっている。

原作は「月刊アフタヌーン」(講談社)で2014年から連載されている沙村広明の同名漫画。 2016年には「このマンガがすごい!」オトコ編第6位にもランクインし、アニメ化も果たした人気作だ。それだけに実写ドラマ化にあたっては不安視する声も挙がったが、本作は「この人がこの役!?」と思うような一見意外な配役が功を奏している。
特にミナレを演じる小芝風花。これに関してはキャスティング担当者のセンスに唸らざるを得ない。小芝は2012年に、「息もできない夏」(フジテレビ系)で俳優デビュー。その2年後に宮崎駿監督のアニメ映画でお馴染みの角野栄子による児童文学を実写映画化した「魔女の宅急便」で主演に抜擢され、愛らしい演技で魔女見習いの少女・キキ役を務めた。ブレイクのきっかけは、隠れ特撮オタクの主人公・仲村叶を演じた「トクサツガガガ」(NHK総合)だろう。同作では、周りに趣味がバレないよう必死でごまかしたり、初めてのヒーローショーに興奮して目をひん剥いたりと振り切った演技を披露している。

以降も、「美食探偵 明智五郎」(日本テレビ系)では食にうるさい探偵に振り回される助手、「妖怪シェアハウス」(テレビ朝日系)では妖怪たちと共同生活を営むことになる気弱な女性、「彼女はキレイだった」(カンテレ・フジテレビ系)ではイケメンエリートとの出会いをきっかけに変化を遂げる元優等生美少女のヒロインなど、小芝は想像もしていないような出来事に遭遇し、右往左往する姿がおもしろ可愛く、思わず応援したくなるような役を多数演じてきた。老若男女問わず、誰からも愛されるヒロイン。ミナレはそんな小芝のイメージを覆す役どころで、だらしなく後先考えずに突っ走る破滅型のヒロインなのだ。だから当初は意外だったが、実際ドラマが始まったら驚くほどにハマっている。コメディエンヌぶりは言わずもがな、ミナレのパーソナリティの才能を感じさせる長台詞回しや度胸と色気を兼ね備えた雰囲気づくりがお見事。原作のビジュアルからは若干離れているのに、不思議とミナレ役を演じられるのは彼女以外にありえないと思わされる。

他にもそのやさぐれっぷりとサバサバ具合が様になる人気パーソナリティー・茅代まどか役の平野綾、序盤からダダ漏れの食えない男ぶりで視聴者の心を掴んだチーフディレクター・麻藤兼嗣役の北村一輝、親子ほど年の離れた女の子から恋心を寄せられている設定に納得せざるを得ない色気を放つ放送作家・久連木克三役の小市慢太郎など、本作はそれぞれのキャラにぴったりな俳優陣の名演から目が離せない。

■片寄涼太が体現するピュアな心
LDH所属のダンス&ボーカルグループ、GENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーである片寄涼太もその一人。彼が演じるのは、ミナレがバイトするスープカレー店「VOYAGER」の従業員でキッチンを担当する中原忠也だ。ミナレに恋している役どころで、メインのストーリーにあまり影響は及ぼさないものの、カレーの香辛料のようなスパイスを本作に効かせている。

片寄は2014年に「GTO」(関西テレビ)で俳優デビュー。両親と血が繋がっていなかったという事実に傷つき、不良グループとつるむようになったが、AKIRA演じる担任の鬼塚と出会い変化していく多感な高校生を演じた。この時、同級生役の小芝風花と共演している。ドラマと映画の両方で制作された「兄に愛されすぎて困ってます」(日本テレビ系)では、今では公私ともにパートナーとなった土屋太鳳演じる義理の妹に想いを寄せる橘はるかを好演。傍目からは気持ちがダダ漏れなのに、妹を傷つけまいと必死で恋心に蓋をしようとする姿が可愛らしくもあり切なくもあった。

「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)では「GTO」と同様に尖ったナイフのように周りを傷つけるが、その内側に実は繊細な心を持った青年を演じた片寄。映画「午前0時、キスしに来てよ」では一転、おとぎ話の王子様のような人気イケメン俳優を演じ、そのオーラを見せつけたが、どの役にも共通するのはピュアな心だ。片寄は色んなものでコーティングされた純粋な気持ちを視聴者に分かりやすい形で示してくれる。だからこそ、彼が演じたキャラクターは結果的に多くの人に愛されるのだろう。
本作でもそんなピュアな魅力が炸裂。原作ではワイルドな風貌でミナレの手下っぽさが拭えない忠也を、従順な子犬系年下男子(実際はミナレと同い年だが)風に演じているのがまたいい。とはいっても、忠也の情の厚さは原作から引き継いでおり、いざとなったら頼りになるかっこよさと、ミナレのことになると途端に抜ける愛らしさのバランスが絶妙で見ていて癖になる。

そんな忠也に無謀とも言える恋をしてしまったのが、中村ゆりか演じる「VOYAGER」に突如現れた謎の美女・城華マキエ。彼女は長らく心配性な兄によって自宅に軟禁されており(「私、兄に愛されすぎて困ってます」という片寄出演の映画にかけたセリフも飛び出した)、そこからどうにか逃れ、お店にたどり着いた。そして、忠也が親切に家にかくまってくれたことからマキエは彼に惹かれていく。だけど、忠也はいつまでたっても振り向いてくれないミナレに夢中。そんな二人の恋の行方を、TELASAで配信中のスピンオフドラマ「波風よ立ってくれ」は追っている。ドラマ本編の裏で密かに深まっていく忠也とマキエの距離がもどかしくも愛おしい。

■ポスト小芝風花の座は原菜乃華の手に?
さらに、Tverでは原菜乃華演じるADの南波瑞穂が主人公のスピンオフドラマ「荒波よ揉んでくれ〜南波瑞穂のAD奮闘記〜」が配信中だ。瑞穂は放送作家の久連木に恋に似た憧れを抱いているが、自分に自信がなく遠慮がちなところがある。そんな時に後先考えず突っ走るがその分度胸もあるミナレが現れ、瑞穂は彼女の才能に衝撃を受けるのだ。

業界歴は瑞穂の方が上だが、まるで彼女はミナレを先輩であるかのように慕う。役の上にとどまらず、原にとっても小芝は同じ役者として憧れの存在のよう。実際少し前なら小芝が演じていたような、周囲の人たちに振り回されながらも必死に食らいついていく正ヒロインぶりが眩しい。昨年、新海誠監督アニメ「すずめの戸締まり」で主演に抜擢され、主人公・岩戸鈴芽に声を当てた原。瑞々しくも確かな演技力を誇る彼女は“ポスト小芝風花”とも言える、今後がますます楽しみな役者だ。

第4話で、2年以内にADからチーフディレクターにキャリアアップし、最強の番組を作ると決意した瑞穂。そんな彼女の応援したくなる奮闘記もお見逃しなく。
■文/苫とり子