刀剣育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞ONLINE』を原案として、アニメ、ミュージカル、舞台、歌舞伎などさまざまなメディアで展開されてきた『刀剣乱舞』シリーズ。2024年4月より放送開始のTVアニメ『刀剣乱舞 廻 -虚伝 燃ゆる本能寺-』は、舞台『刀剣乱舞』の第一作目を脚本原案とした新作アニメで、織田信長が没した「本能寺の変」を巡るストーリーとなっている。今回は、そのなかでもキーキャラクターとなる三日月宗近役の鳥海浩輔と、山姥切国広役の前野智昭の対談が実現。原案ゲームやアニメなど、数多くのシリーズで同キャラクターを演じてきたお二人が感じる今作の魅力とは?

■三日月のセリフはすべてが意味深

――今回、アニメ化の話を聞いた際のお気持ちはいかがでしたか?

前野:舞台でも人気の高かった作品と伺っていましたし、新作アニメーションとして動く刀剣男士たちが観れるというのはすごく嬉しかったです。舞台が脚本原案というところで、これまでとはまた違った魅力や活躍が見れるんじゃないかと思いましたし、そこはとにかく楽しみでした。

鳥海:僕も前野さんと同じなんですけど、でもちょっと驚きましたね。もともとゲームだった作品が舞台となっていき、さらにはその舞台作品をアニメ化するという流れに「こんなこともあるんだな」と。逆輸入と言うのか並行輸入と言うのか。でもまたみんなで彼らを演じることができるというのは、僕も素直に嬉しい気持ちでした。

――アフレコはスムーズに進みましたか?

鳥海:スムーズでしたね。キャラクターとは長い付き合いですし、役の表現についてはかなり任せていただいている部分も多いので、大きな修正やディレクションはほとんどなかったと思います。

前野:そうですね。もちろん細かいニュアンスだったりアクションのタイミングなどはその都度ディレクションをいただきましたけど、キャラクターの振り幅や大枠の部分では僕らを信頼して任せていただけているので、そこは責任を持ってやりきりましたね。

――改めて、それぞれが演じるキャラクターについて、今作での印象をお聞かせください。

前野:僕が演じる山姥切国広は、ずっとコンプレックスが軸にあるキャラクターなので、そこは変わらず大切にしつつも、今回はより葛藤や成長といった内面描写がクローズアップされているような気がします。葛藤を乗り越えていく過程も描かれるので、より応援したくなるような、ストレートなキャラクターになっていると思います。それで言うと、演じるのが難しいのは圧倒的に三日月宗近ですよね?

鳥海:まあ、たしかに難しいです。と言うのも、アニメではまだまだ謎が多くて、よく分からないキャラクターなんですよね。ポワポワしているけど謎の大物感があるし、なんならラスボス感まで漂わせていて。すべてを知っているようにも思えるし、でも何も知らないかもしれないという立ち位置なので、あえてセリフに意味を持たせすぎないようにしていて、いつもその塩梅に気を配っています。

前野:三日月はどうとでも取れるような言葉を言い残して、フッと去っていくんです。でもあとになって「あの時の言葉はこのことを指していたのか?」って思わせる何かがあって。

鳥海:まさにそこを目指しているんですよ。とくに今回の『廻』では、わりと三日月が山姥切さんを導くポジションとも言えるので、これまでのシリーズと比べるとそこはより分かりやすい気もしますね。

前野:たしかに、僕としては三日月のすべての発言が何らかの伏線なんじゃないかって勘ぐっていました(笑)。

鳥海:ですよね。これまでのキャラクター性や関係性は踏襲しつつ、一歩踏み込んだ三日月と山姥切さんの掛け合いを楽しんでいただけたらと思います。

■失敗も時間が経てばラッキーな経験?

――『刀剣乱舞』シリーズの基本的な世界観は、刀剣男士たちが歴史改変を目論む敵と戦うというものです。お二人は改変したい黒歴史などはありますか?

鳥海:いやいや、失敗があっての僕ですから(笑)。今となってはすべては実になっていますよ。

前野:その通りなんですけど、僕はまだそこまで割り切れないことも多くて。刀剣乱舞では関係ない作品のオーディションの最終候補で落ちたときなんかは、「もうひとつのアプローチでやっていれば、あるいは……」とか思っちゃうんですよ。そんなときは、時間を巻き戻してやり直したいなと思ったりもしますね。

鳥海:でも、挫折も失敗も知らない人なんて、逆につまらなくないですかね? きっと他人の気持ちも分からないだろうし、人間的な魅力はあんまり感じないような気がしますね。まあ、そんな人にはまだ会ったことがないので、一度は会ってみたい気もしますけど(笑)。

前野:たしかにそうかも。失敗した瞬間はへこみますけど、時間が経てばエピソードトークのネタにもなりますし、プラマイゼロっていうか、むしろ逆にラッキーな経験かも!

鳥海:そうそう、成功体験も必要ですけど、失敗体験も絶対に必要だと思いますよ。

――お二人とも前向きですね。ちなみに本作の出陣先は「本能寺の変」が起きた戦国時代ですが、歴史上でとくに好きな時代というのはありますか?

鳥海:僕はもともと歴史好きなんですけど、ベタですけどやっぱり戦国時代や幕末などはとくに好きですね。若いころはその時代の小説ばかり読んでいた時期もありますし、戦国武将や幕末志士というのは声優として演じる機会も多いですから、そういう意味でも親近感もあるんです。

前野:僕も戦国時代ですね。僕は一時期某歴史シミュレーションゲームにめっちゃハマっていたんですよ。プライベートで飲みに誘われても「今日は川中島の決戦があるから」って断っていたくらい(笑)。それもあって、この時代は僕自身が武将としてなんども生きている感じがするので好きです。

――話を本作に戻しますが、これまでもアニメでは『刀剣乱舞-花丸-』、『活撃 刀剣乱舞』 などで刀剣男士たちの活躍が描かれています。そのなかで、本作ならではの魅力というと、どんなところだと思いますか?

前野:山姥切としては、葛藤を乗り越えて成長につなげていくという過程がこれまで以上にしっかりと描かれているので、そこは見どころじゃないかなと思います。もうひとつの柱となるのが、織田信長に所縁のある4振りの刀剣男士たちの物語で、そちらもかなり過酷な展開なんです。だから全体を通してわりとシリアスな雰囲気なんですけど、同時にとても感情移入できるストーリーになっているので、たっぷりと楽しんでいただけると思います。

鳥海:あまり寄り道をせずにゴールに向かって一直線に向かっていく展開なので、その分、山姥切さんをはじめキーになるキャラクターがじっくりと丁寧に描かれていて、そこはこのシリーズの特徴だと思います。『花丸』とも『活撃』ともまた違った魅力が詰まった作品であることは間違いないと思います。私たちも自信を持ってお届けできる作品になったと思うので、ぜひ最後まで楽しんでください!

――ありがとうございました!

■取材・文/岡本大介