年季の入った音楽ファンであれば「夜明けのランナウェイ」「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」「バッド・メディシン」「オールウェイズ」といった全地球的ヒットを思い浮かべることだろうし、4月24日にスタートした連続ドラマ「ブルーモーメント」(毎週水曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)の主題歌である新曲「レジェンダリー」に接して彼らのファンになった人も多いに違いない。“彼ら”というのは1984年にデビューし、40年にわたり世界を熱狂させ続けるカリスマバンド、ボン・ジョヴィのこと。そんなボン・ジョヴィのことをもっと知りたいと思った人に打ってつけな作品「ボン・ジョヴィ:Thank You, Good Night」(全4話)が4月26日に配信された。トータルで約5時間の尺を持つ、同バンド初のドキュメンタリー・シリーズだ。「よくここまで踏み込むことができたな」という撮影場面やインタビュー、デビューから今までの演奏・歌唱映像も満載。さらに、フロントマンのジョン・ボン・ジョヴィやキーボード奏者デヴィッド・ブライアンの少年時代についても触れられている。今回、音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が、ボン・ジョヴィの魅力を独自の視点で解説する。(以下、ネタバレを含みます)

■洋楽が身近だった頃に現れたロックバンド

自分が中学生の頃(1980年代半ば)は、今からは信じられないほど洋楽が日本で身近だった時期で、「夜のヒットスタジオ」や「ザ・トップテン」などのテレビ番組で外国人アーティストがパフォーマンスすることはごく当たり前だったし、AMラジオをつけても日本のアイドルのヒット曲の間にライオネル・リッチーやマイケル・ジャクソンやフリオ・イグレシアスなどの楽曲が普通にかかっていた。(今で言えばK-POPアイドルがそのポジションか)。

菊池桃子の武道館コンサートで、アーニー・ワッツ(ローリング・ストーンズのツアーに参加)やアレックス・アクーニャ(ウェザー・リポートで、ジャコ・パストリアスとリズム・セクションを形成)が演奏した時代。いわゆるMTV、洋楽のミュージックビデオを流す番組も深夜に放送されていて、学校では「この前のMTV見た?」「誰それの新曲(洋楽)、かっこいいよなー」というような会話が普通にできた。そうした時代の空気に飛び込んできたのがボン・ジョヴィという、妙に覚えやすい名前を持つバンドだった。

HR/HM(ハードロック/ヘヴィーメタル)を日本に広めた1人といっても過言ではない評論家で、ラジオDJの伊藤政則氏が力を入れてガンガン紹介していた。曲は「夜明けのランナウェイ」。私の第一印象は「なーんかメタルじゃないなあ」というものだった。ヴァン・ヘイレン、ゲイリー・ムーア、スコーピオンズなどを聴いていた自分には、すごく“歌謡曲的”に感じられた。

だがラジオで彼らのいろんな曲を何度も耳にするうち、メロディアスな感触、サビにもっていくときの構成のうまさ、リード・ボーカルとサイド・ボーカルの重なりにひかれていく自分がいた。泣きや湿りがあるといえばいいのか。ボン・ジョヴィの初来日にあたるロック・フェス「SUPER ROCK '84 IN JAPAN」のライブ取材記事は雑誌で見たが、対バンはマイケル・シェンカー・グループ、スコーピオンズ、ホワイトスネイク、アンヴィル。ルドルフ(スコーピオンズ)とマイケルのシェンカー兄弟と同じ舞台に立つとは、すごい新人グループなんだなと思った。

■ボン・ジョヴィの軌跡を熱量たっぷりに紹介

「ボン・ジョヴィ:Thank You, Good Night」を見て、私が「うわー、これはすごい熱量だな! 制作スタッフ、気合入っているな!」と最初に感じたのは、この「夜明けのランナウェイ」に至るまでのエピソードだ。

中心人物でリード・ボーカルのジョン・ボン・ジョヴィはアメリカのニュージャージー州生まれ。レッド・ツェッペリン、クイーンなど数々のスター・ロック・バンドに憧れ、友人たちと管楽器入りのバンドを組んでリズム&ブルースのカバーをして、同じくニュージャージー州生まれの大先輩ブルース・スプリングスティーンに認められ…といったエピソードから、いとこの名録音エンジニア・トニーが勤めるニューヨークの有名音楽スタジオで裏方修業していた日々、でもやっぱり自分で歌いたくて「夜明けのランナウェイ」のデモ音源を作る。だがレコード会社からは無反応、そこでラジオDJに音源を届けたところ徐々にブレイク、バンド結成の必要が生じる、芸名をジョン・ボン・ジョヴィに、メンバーを急募して“ボン・ジョヴィ”結成という流れは本当に圧巻。

ある種寄せ集め状態で始まったバンドが、魔法のようなケミストリーを発揮して“ヘヴィーメタル、ポップス、ロックの懸け橋”となり、40年を経て今に至っているのは、まさに奇跡だ。

1984、85、86年と毎年アルバムを出し、86年の『Slippery When Wet(邦題:ワイルド・イン・ザ・ストリーツ)』は2000万枚の売り上げを示した。88年の『ニュージャージー』からは5曲のトップ10シングルが生まれ、世界各地のアリーナやスタジアムを沸かせる代表的バンドに。「ロック・バンドの怖さ、いかつさ」が控えめ、ということも大衆的人気に貢献していたはずだ。当ドキュメンタリーには、ジョンに恋人(現在の妻)の存在が明らかになった時のニュースフィルムも挿入されている。「彼女じゃなくて私を選んで!」と主張するファンに、「いや、私を!」と声を挙げた別のファンは山ほどいたのではないか。

■最新アルバム『フォーエヴァー』のリリースも決定

ボン・ジョヴィの全米アルバムチャート1位の足跡は2016年の『ディス・ハウス・イズ・ノット・フォー・セール』まで、すべての作品ではないにせよ、続いてきた。新曲「レジェンダリー」に続き、この夏には4年ぶりの最新アルバム『フォーエヴァー』のリリースも決定している。「今度も1位か?」という期待が起こるのは当然かもしれないが、いちファンとして何よりもこの新作で出会いたいと思っているのは「コク」と「深み」だ。

ドラマーのティコ・トーレスは70歳となり、1990年代からレコーディングなどを手伝い、2016年についに正式メンバーとなったベース奏者ヒュー・マクドナルドは73歳だ。そしてドキュメンタリーに登場するジョンの発言には、いくつもの諦念を経て、それでも輝き続ける希望がある。積極的に取り組んでいる慈善活動での反応も、実にいい感じでフィードバックされているように感じられた。

「ボン・ジョヴィ:Thank You, Good Night」には、ジョンと名コンビを形成したリッチー・サンボラがバンドと距離をおいたこと、“グランジ”が出現した時の焦燥、ここ十年ほどのジョンの喉のコンディションなどに関しても触れられているが、包み隠さず前進する姿勢には敬服するしかない。ぜひライブに接して、ジョンの生の言葉“Thank You, Good Night”を浴びたいという気持ちは高まるばかりだ。

「ボン・ジョヴィ:Thank You, Good Night」は、ディズニープラスのスターで独占配信中。

◆文=原田和典