何となく暇な午後、コーヒーなどたしなみながら、何となく庭など眺めておりますと、みなさん、こんなことないですかねえ。ワタクシ先日、おもむろに、大昔に見たテレビのクイズ番組の一シーンを思い出しましたよ。

●3文字の秘密

 司会者が質問します。「南極調査に向かう船中。新婚の隊員に、奥さんからメッセージが送られてきました。わずか3文字だったのですが、それを読んだ同僚は涙しました。どんな言葉だったでしょうか」

 さてみなさん、どうでしょう。3文字ですよ。ワタクシは答えを知っておりますので、しばし考える時間をもちましょう。

●手段も値段も様変わり

 昔と今。通信環境は様変わりしました。音声にせよ文字にせよ。かつては情報を届けるのに、ものすごくコストがかかったんです。

 ボクがアメリカにいた30年余り前は、郵便か電話ですよ。スカイプなんてないですから電話をかけようものなら、法外な料金をとられました。郵便なら急用には間に合いません。

●では回答は?

 そんな具合ですから、南極へ向かう船舶にメッセージを送るのは、非常に困難かつ高額だったんでしょうね。だから3文字となったのでしょう。この話って、もしや都市伝説か、といった疑念がないわけではないけれど、今回の話の都合上、それは脇へ置いときます。

 さあ、それじゃ、正解を申し上げます。答えは「あ・な・た」でした。えっ、それだけ、という気がしますよね。だからクイズにもなったのでしょう。何が心を打ったのでしょうか。

●イマジネーション

 よくよく考えてみますとね、声に出さずに復唱してみますとね、これはかなり含蓄のある言葉ですよ。

 「あなた、元気にしている?」「あなた、会いたい」。その次の言葉を、読み手は想像しないではいられない。「あなた、浮気してしまいました」なんてのは、決して浮かびません。浮かぶのは読み手の望むパートナーの姿でしょう。

 心が通じ合っている者同士なら、「あなた」の下に続く二人の言葉が、そうはずれてはいないでしょう。多くの隊員が心を震わせたのは、遠く離れたパートナーを、すぐそこに感じたからではないですかね。

●書きすぎの罪

 ボクも原稿を書く仕事をしていますが、どうしても書きすぎてしまいます。「あなた」に匹敵するような文が書けたためしがない。これもまたボクの未熟さ、生涯勉強です。

 以前、「間の大切さ」を説くインタビュー記事を読んだことがあります。しゃべりすぎると間をつぶしてしまいますねえ。余韻も何もあったものではない。言葉はそれ自体が力をもっていますからね。その力を十分に引き出してやる必要があるんじゃないですかね。そのためにも間は重要です。意味というのは、書かれていないところで生成されるからです。

●言葉は量じゃない

 昔と違い、メッセージが安く、早く、簡単に届けることができるようになりました。メールがあり、ラインがあり、フェイスブック、インスタグラムにティックトック、たくさんのツールが存在しています。

 その分、言葉の扱いがぞんざいになっている印象があります。間の余韻に気を遣うどころか、人への誹謗中傷もおかまいなしの印象です。意識的にそうするなら致し方ないのですが、膨大な量の言葉を並べながら、結局は誤解されるはめに陥ることも珍しくはありません。

●仏教では

 大乗仏教に「十善戒」という教えがあって、そのうち四つは言葉にまつわる戒めです。

 「不妄語」=うそをつかない

 「不綺語」=奇麗ごとを言わない

 「不悪口」=悪口は言わない

 「不両舌」=二枚舌を使わない

 要するに言葉を、人を傷つけたり悲しませたりすることに使ってはならないということです。そもそも言葉や文字は、他者と考えを共有するための道具なのですから、より誠実であるべきなのです。

●利他の心、ここにも

 特殊な状況とはいえ、3文字で届けられる感動がある。言葉はそれほどの力を持っているのです。動物のコミュニケーションから想像するに、言葉の起こりは、仲間に危機を伝えるためだったのかもしれません。利他の心を宿した道具として生まれたのではないか、とも思います。

 であるなら、周りの人々を幸せにしてこそ、本来の言葉というもの。人がまだ猿だった頃から、随分時間がたっているのですから、もうちょっと賢く使いましょうよ。

 国内でインターネットの商用利用が始まって30年以上がたちました。そろそろ、年相応の付き合い方ができてもいいのじゃないか、と愚僧チョークー、そう思うわけであります。合掌。

 人生とはなんぞや。この深い問いに、人様以上に悩み多きチョークー和尚が答えます。役に立つか立たないか、読み手次第、あなた次第。肩のこらない相談室です。

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 福島聴空(ふくしま・ちょうくう) 高野山大卒。元高野山米国別院駐在開教師。高野山真言宗現福寺(小松島市)住職。令和元年から「仏教をうたう」と題した音楽活動を展開。1962年生まれ。大阪市出身。