世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」の登録10周年を記念する式典とシンポジウムが29日、富岡製糸場内の国宝「西置繭所」で開かれた。群馬県や構成資産の地元自治体、市民団体の関係者らが節目を祝い、保存活用に取り組む決意を新たにした。入場者の減少が課題となる中、構成4資産が連携して国内外に価値を発信する統一ロゴも発表された。(石井宏昌)

 ロゴは文字とマークの2種類。文字は日本家屋を思わせる格子や養蚕の回転まぶしをイメージしたデザインで、文字を構成する線の縁を荒く加工して繭の質感を演出。マークは繭玉と「絹」の旧字体を組み合わせた意匠とした。今後、世界遺産関連イベントやノベルティー製作などで使う。

 式典には約130人が参加し、構成資産のある富岡、伊勢崎、藤岡、下仁田の4市町の首長が10年間の整備状況と今後の方針を説明。次世代を代表し、製糸場の植栽活動をしている富岡実業高3年の福田雅人さん(17)が「私たち若い世代が協力し、富岡製糸場と絹産業遺産群が世界中に注目され続け、価値や魅力を後世に伝えられるよう取り組んでいきたい」とのメッセージを読み上げた。

 シンポジウムでは「シルクの未来・可能性を語る」をテーマに絹の研究開発者やアーティストら3人のパネリストが意見交換した。

 県によると、4資産には2014〜23年度に延べ645万人が訪れた。14年度は145万人だったが、コロナ禍の20年度は20万人弱まで減少。23年度は39万9千人になったが、コロナ禍前(19年度48万7千人)には戻っていない。

 中心となる富岡製糸場も14年度の133万人をピークに、20年度は17万7千人に落ち込んだ。23年度は36万7千人に増えたが、目標の40万人には届かなかった。製糸場には繰糸所や東置繭所、西置繭所の国宝三棟を中心に大小約百棟もの文化財がある。施設の維持管理や整備には多額な費用が必要で、その柱の一つとなる入場料収入の確保は大きな課題になっている。

<富岡製糸場と絹産業遺産群> 高品質な生糸の大量生産を実現した技術革新と、世界と日本との技術交流を主題とした近代の絹産業に関する遺産で、2014年6月に世界文化遺産に登録された。フランスの技術を導入した日本初の官営模範製糸工場「富岡製糸場」(富岡市)、近代養蚕農家の原型「田島弥平旧宅」(伊勢崎市)、近代養蚕法の標準「清温育」を開発・教育した場「高山社跡」(藤岡市)、自然の冷気を利用した国内最大規模の蚕種貯蔵施設「荒船風穴」(下仁田町)で構成する。