室町時代後期に活躍した武将・太田道灌。戦乱の時代、関東安寧のために生きた生涯の中で、中原区とも深い関わりがあった--。

太田道灌と中原区のエピソードにも触れている歴史小説『太田道灌勇飛録』がこのほど、文芸社から発行された。著者は、横浜市在住の会社経営者、今井則道さん(73)。今井さんは、城や古戦場、武将にまつわる寺社仏閣が好きで、全国各地を巡っている。同書は、今井さんが文献等で調べた史実を基に、想像を膨らませ、歴史小説に仕立てあげた。

同書の中で、触れられている中原区のエピソードは、現在の日枝神社と上丸子小学校にかけてあったとされる「丸子城」について。「道灌が記した書状『道灌状』で丸子城について触れられており、ほかの文献にも道灌と争っていた豊山泰経が立ち寄ったと記されているので、城があった信ぴょう性が高い」と今井さん。丸子の「丸」は城郭の一部を指し、周辺に住む住民は、奈良時代に九州の防人だった「丸子部(まりこべ)衆」と呼ばれていたという。

今井さんは「親戚が丸子周辺に住んでいたこともあり、幼い頃から日枝神社に何度も立ち寄っていた。丸子城についてのエピソードは思い入れがある」と語る。

太田道灌は、江戸城の築城や、小机城(横浜市)を攻めたことで知られている。「山吹の里伝説」などで文化人・知識人のイメージが強いが、実は敵から最も恐れられた戦の達人だったという。まえがきに「道灌以降、台頭した戦国大名が非道の限りを尽くして他国への侵略を繰り返した英雄話とは一線を画す、道灌の英雄伝説を本書を通して伝えたい」と記した上で、「日本人の心の奥底にある武士道の心を感じて頂ければ幸い」としている。今井さんのインスタグラムでは道灌ゆかりの画像を紹介しており、「ぜひ拙著を読みながら、写真も堪能してほしい」と話している。

書籍は四六判で全304ページ。税込1650円。購入は書店や文芸社のホームページ、インターネット通販サイトなどで注文できる。