また、「企業レベル」であれば、「既存事業」を対象に含めるのか、新たなビジネスモデルにおける「新規事業」を対象にしているのか。あるいはその両方を対象にしているのか。

それは中央省庁のDX定義だけでは読み解けない。

この「企業レベル」のDX定義に関しては、重要な観点があるため、少し補足したい。

日本の99.6%を占める中堅・中小企業経営者の方々は、新規事業や企業変革に踏み込めない理由として、「会社の幹となる既存事業が優先」「既存事業で十分な利益が確保できなければ他への投資はできない」「既存事業で生き残れればそれで十分」とお考えではないだろうか。

事実、既存事業の業務効率化や業務改革から進めなければならない企業もあれば、新規事業を通じた企業変革から進められる企業も存在し、それぞれの置かれている状況は異なる。

しかしながら、提示された文言、たとえば経済産業省の「デジタルガバナンス・コード」にあるDXのプロセスを見ると、主に企業変革を進められる状態の企業にのみ焦点が当てられているような表現になっている。

つまり、既存事業の業務効率化や業務改革のためのDXを必要とする経営者の視点が欠落している。ここが日本の生産性を労働の現場から高めていく出発点であるにもかかわらず、である。

99.6%の経営者が知りたいDX推進の前提となる既存事業による利益確保が考慮されていないのだ。

日本企業が足踏みしている一因は、DXという言葉の定義と対象が一様でないという言葉の曖昧さにあるといえる。

「既存事業のデジタル化」がカギ

“非”ソフトウェア企業がソフトウェア企業へと変貌するための道筋は、「新規事業を通じた企業変革」だけではない。

既存事業を守り、発展させてきた多くの日本企業にとって「新たな価値を創出する」ためには「既存のビジネスモデルや企業文化などの変革」も選択肢である。

産業レベルと企業レベルで異なるように見える「DXの定義」は、日本の企業・経営者が大切にしてきた「既存事業」からスタートすることではじめて、推進すべき自社独自のDXの「言語化」と「定義」が可能になる。