車両は新造ではなく、かつて肥薩線を走っていた観光列車「いさぶろう・しんぺい」に使われていたキハ47形2両とJR九州管内の普通列車などで活躍したキハ125形1両を改造し、3両編成の列車に仕立て上げた。久大本線経由のルートを使い、木曜を除く毎日、約4時間半かけて1日1便(片道のみ)運行する。博多から別府方面に向かう列車が「かんぱち号」、別府から博多方面に向かう列車が「いちろく号」となる。

「かんぱち・いちろく」というユニークな名前は久大本線の全線開通や形成に尽力した2人の実業家、麻生観八と衛藤一六の名前に由来する。麻生観八は大分県九重町に本社を置く八鹿酒造の3代目、衛藤一六は旧大分県農工銀行の頭取を務めた。

かんぱち・いちろく ロゴ JR九州の観光列車「かんぱち・いちろく」のロゴ(撮影:尾形文繁)

車両デザインは鹿児島県の建築会社IFOO(イフー)がデザインを担当することに決まった。「ヤフーで検索してイフーさんを見つけた」と古宮社長は話したが、もちろん冗談。イフーはJR九州と連携して利用者の少ないローカル線の駅を活用したまちづくり事業に取り組んでおり、JR霧島神宮駅の駅構内をリノベーションするなどの実績を持つ。鉄道車両のデザインにも関心を示しており、「地元を大切にしており、その理念に共感した」と、古宮社長は起用の理由を説明する。

JR九州 古宮社長 かんぱち・いちろく 「かんぱち・いちろく」車両完成披露式典であいさつするJR九州の古宮洋二社長(撮影:尾形文繁)

デザイナー交代の真相は?

これまでのJR九州の観光列車は工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が一手にデザインを引き受けてきた。観光列車だけでなく新幹線、さらには高速船、駅舎に至るまで大半のデザインを担当し、JR九州の「顔」ともいえる存在だった。とりわけ「ななつ星」はアメリカの旅行雑誌で3年連続世界一に選出されるなど、世界的にも評価が高い。それだけに新デザイナーの起用は驚きでもあった。

デザイナー交代の理由は公式的には水戸岡氏の年齢によるものだ。水戸岡氏は1947年生まれの76歳。2022年10月にななつ星がリニューアルされたが、その仕事の際に水戸岡氏は「私の年齢からいって、今回が最後の仕事」と話していた。古宮社長は「水戸岡さんとは30年以上のご縁やお付き合いがあるが、いつかは変わるときが来る」としたうえで、「今回がそのタイミング」と述べた。ただ、水戸岡氏はななつ星リニューアル後も仕事を続けており、現在はJR北海道の観光列車のデザインを「最後の仕事」として取り組んでいる。

いっぽうのイフー。同社の八幡秀樹社長は古宮社長から「由布らしい列車を造ってほしい」と頼まれたものの、なにしろ初体験の仕事である。JR九州のスタッフたちとの間でデザイン会議が何十回と行われたが、「最初は何もわからずご迷惑をおかけした」と明かす。たとえば、車両の基本的構造を踏まえずに車体側面に占める開口部(窓)の面積を大きく増やしてしまったこともあったという。

イフー 八幡社長 「かんぱち・いちろく」のデザインを担当した建築会社IFOO(イフー)の八幡秀樹社長(撮影:尾形文繁)