JR奈良線の複線化事業で注目したいのは、沿線自治体が工事費をJR西日本と折半したことである。2001年完成の第1期工事では、事業費152億円のうちJR西日本が76億円、残りを京都府38億円、京都市15億円、宇治市など他市町23億円と負担した。

官民ともにJR奈良線は輸送改善をすれば利用が伸びる余地はあると判断し、積極策を講じた。実際、運行本数は国鉄時代と比べて5倍近く、利用者は約3倍に増えた。

一方、今回の第2期工事の事業費397.1億円のうち、JR西日本は約25.2%の100億円を負担するにとどまった。事業性、採算性を懸念したようだ。残り297.0億円について、府と沿線6市町がそれぞれ148.5億円ずつ負担した。

なぜ、地元はJR奈良線に期待するのか。京都府建設交通部交通政策課の笹井淳課長は「京都府にとって、奈良線の高速化・複線化は長年の課題でした」と語る。

府は総合計画で「府域の均衡ある発展」を掲げ、府内のJR線の改良工事へ積極的に税金を投じてきた。1999年に山陰本線・舞鶴線の電化を完成させ、次にJR奈良線複線化第1期工事、2010年に山陰本線園部までの複線化も実現させた。次はJR奈良線の複線区間を延長して……と府民の期待が高まっていた。

京都府南部の木津川西岸では関西文化学術研究都市の整備と大規模開発が展開されてきたが、JR奈良線の走る木津川東岸エリアの開発は停滞。井手町と木津川市北部(旧山城町)にあるJR4駅の乗車客数は30年前より3割減となった。城陽市は1995年、宇治市も2010年から人口減に転じている。

今回の複線化にあわせ、5駅で駅舎の改築、橋上化、そして駅前広場の整備が行われた。井手町は山城多賀駅の西口駅前広場に5.8ヘクタールの開発地を用意して商業施設を誘致。今夏、スーパーがオープンする。各市町とも厳しい財政状況にあるが、交流人口を増やそうと駅施設を改善した。まちづくりへの期待が大きい。

新名神大津―城陽間の開通に注目

もう1つ、地元期待の事業が、新名神高速道路大津IC―城陽IC間の建設だ。城陽市の東部丘陵地帯では次世代基幹物流施設の工事が次々と着手された。新名神でのダブル連結トラック、そして隊列走行、自動運転などを想定している。

商業施設については、JR長池駅の1.5km東側で、三菱地所系の関西最大級のアウトレットモールが整備されている。駅との間に利用者や従業員用のシャトルバスの運行が予定されており、開業の暁にはJR奈良線の利用状況も変わるだろう。

ただ、新名神延伸区間の開通は当初2024年春開通予定だったのが、2024年度末に延期され、さらに今年1月、「開通時期未定」と発表された。各プロジェクトとも見直しを迫られている。