「一人ひとり訪ねていって、すぐに会えた人もいたけれど、1カ月以上連絡がつかない人もいました。話ができても仕事を続けるか迷っている人も多かった。辞める決断をした人もいた。これでは輪島塗はなくなってしまう。本気でそう思い、できるだけ一緒に仕事をしていた職人の工房や家へ足を運んで、消息を辿りました」

未曾有の被害が起きて、職人が廃業を決心してしまう大きな理由として、輪島塗産業の逆ピラミッド構造があると赤木さんは指摘する。

輪島塗の職人の中でも、木地師の仕事は労働時間の割に賃金が安い。同じ輪島塗の中でも上塗りや蒔絵の職人のほうが賃金も高いし、自分のやりたいことが伝わりやすい。

そんな状況から近年、木地師の成り手が激減。そもそもの産業構造が、下支えをする職人が減るという逆三角形のピラミッドになってしまっていた。

そんな状況下で被災。一気に産業構造が崩れてしまったのだ。

災害を「大変革の芽」に変えて

震災は、輪島が誇る伝統工芸に深刻な被害をもたらした。しかし一方で、「すべてが破壊された今だからこそ、業界が抱える問題を解決する一歩を踏み出せるのでは」と、赤木さんは前向きに考える。

漆器の美しさの重要な要素として器のフォルムがある。漆器は古くから神事にも使われ、その形が整えられてきた。美しいフォルムは代々技術を受け継いできた木地師にしか作り出すことができない。

しかし、高度経済成長期を経て豪華絢爛な蒔絵を施した数十万円で売られる高い器が主になり、下地を作る職人に光が当たらなくなっていたというのは先に書いたとおりだ。