「今まで書いた主人公の中でこれほど萌えたのは初めて」と語る作家・恩田陸さん(撮影:今井康一)

小説家という生き物は「ロマンチストの最高峰」だ、そう思った——。3月22日発売の最新作『spring』の創作にあたって、稀代のストーリーテラーたる恩田陸がいのちを絞り込んだのは、この世にまだ存在しない美しき天才の物語をひたすら妄想し、紡ぎ出す作業。根がロマンティック好きじゃなきゃ、やっていられない職業だ。

ホラーもファンタジーもミステリーも、ストレートな青春小説も恋愛小説も自由自在に操ってきたとばかり思われた、恩田陸。だがこの多作な直木賞受賞小説家は、作品を絞り出す代償としてロマンティシズムなんてものと正反対の犠牲を払ってきた、と告白してくれたのだった。

「主人公の中でこれほど萌えたのは初めて」

「会社員を辞めて専業作家になって、いくつも連載を抱えながら、眠くないなぁ、なんでだろうと思いつつ年間6000枚とか書いていて。そうしたらあるとき、バサっと髪の毛が抜け始めて、お風呂で見たら床が髪の毛だらけ。全身脱毛症でした」。そういうときって全身の毛が、上から下へ順番に抜けていくんですよ、発見でしたねぇ。ふふっと笑う。

創作の現場は、自身が紡ぎ出す美しい世界観とは正反対の修羅場。創作のプレッシャーと、自身の限界と。「才能ってなんだろう、というのが私のテーマなんです」。そして今回、恩田が身を削って書き続けた最新作に爆誕したのは、彼女自身「今まで書いた主人公の中でこれほど萌えたのは初めて」と語る、恩田陸作品史上もっともヤバく耽美な天才バレエダンサーだったのである。