「立派に写ってあり、ほほえましく思えました。また、あの日の演奏が聴こえてくるようです。レコードから“ロングロングアゴー”が流れてくると、『あっ、英策くんがバイオリンで弾いたのよ』と話したりしています。まだ、バイオリンってどういうのか知らない子もいるかもしれません。今日は、写真をみんなに見させていただこうと思います。きっと喜ぶことでしょう」

あの日の演奏……そうだ。幼稚園の先生たちは、私のバイオリンの発表会に来てくださったのだ。会場の一番うしろで『星の王子さま』をプレゼントされ、本にはみなさんのサインとメッセージが書かれていた。

記憶がよみがえる。母は、運動会になると、深夜まで準備に追われる先生たちが気の毒だと言って、先生全員分のお弁当を作っていた。それだけではなかった。毎週、月曜日の朝には、教室が明るくなるように、と、玄関の前に咲く花を摘んで、持たせてもらっていた。

母が書いた日記をとがめなかった先生

生徒をはさんだ先生と親の交流。この不思議な関係は小学校でも続いた。

小学4年生のことだ。私は、朝の教室で、宿題の日記を書き忘れたことに気づいた。ムダだとは知りながらも、わらにもすがるような思いで日記帳を開いた。するとそこには、昨晩の親子の会話がそのまま書きこまれていた。

母の字だった。昭和1桁生まれで旧字体を使う人だったから、代筆がばれるのは必然だった。それでも私はその日記を提出した。学校で一番きびしい先生だったから、気が気ではなかったが、奇妙にも、先生からは何のおとがめもなかった。

10年の月日が流れた。大学生になった私は、母の店で当時の先生とお酒をご一緒させていただく機会を得た。ずっと不思議に思っていた私は、先生に日記の話をたずねた。先生はしっかりと覚えておられ、こうおっしゃった。