アストンマーティンが北海道で、プレミアムSUV「DBX707」の試乗会を開催。元F3ドライバーの佐藤晋也さんを助手席に、北の大地で爽快な走りを体験しました。ドライビングの楽しさを重視したつくりです。

名前の「707」の由来とは

 いわゆるスーパーカーや超高級スポーツカーブランドがSUVを打ち出し、ヒットを重ねています。走りに特化した全高の低いクルマばかりというなかで、SUVならば実用性も高く普段づかいもしやすく、ブランドの枠を広げるのに一役買っているようです。
 
 その流れは、映画『007』シリーズのボンドカーや、2023年のF1における前半戦で絶好調だったイギリスの名門、アストンマーティンも同様。初のプレミアムSUVである「DBX」の登場から3年、さらにパフォーマンスレベルを高めた「DBX707」が誕生しました。2023年7月、このプレミアムSUVに北海道のニセコで試乗する機会がありました。

 DBX707のスペックは、車両のサイズが全長5039mm、全幅1998mm、全高1680mmで、ホイールベースが3060mm。重量は2245kg(DIN規格)です。パワートレインは、メルセデスAMG177を使った4.0リットルV8ツインターボエンジンで、最高出力707PS/6000rpm。そう、車名の「707」の数字は馬力から名付けられました。

 最大トルクは900Nm/2600〜4500rpmで、一昔前のF1エンジンと同じパワーを持っています。停車時から100km/hまでは、DBXで4.5秒かかりましたが、DBX707はわずか3.3秒です。

 現在の自動車メーカーは、できるだけグループ内の共通のプラットホームを使って収益を高めようとしますが、DBX707は、このクルマに特化したシャシーを持つのが特徴です。これらの点を考慮すると、“世界最強のSUV”といっていいでしょう。

外観の特徴

 外観は、精悍な感じのフロントビューですが、同社最大級の大きさとなったフロントグリルは、かなりの存在感があります。

 リアは、まるでF1のような大きなディフューザーがあり、見るからにダウンフォースが効きそうなデザインです。とはいえ、ディフューザーの下に小さなウィングレットがついているので、結果的にダブルディフューザーのようになっているのですが。

内装でありがたかった点とは

 続いて内装です。インパネのデザインは、左にスピードメーター、右にタコメーターと標準的で、視認性も良く、日本人ドライバーにとっても違和感がありません。

 筆者(武田信晃)がありがたいと感じたのは、テスラのように全てディスプレー内臓ではなく、エアコンの各種調整や、センターコンソールの部分に物理ボタンが残っていた点です。テスラのような巨大ディスプレーはかっこよく、先進的な印象を与えますが、ディスプレー内ボタンを正しく押せなかったり、うまく選択できなかったりする場合があります。

 ウインカーのレバーは、左側にあるワイパーと一体化しているので、最初は戸惑うかもしれません。後部座席は、前の座席との距離があるので快適ですし、サンルーフがあるので車内も明るく感じます。

いざ発進! ニセコ→新千歳の雄大なドライブ

 試乗コースは、羊蹄山の麓にあるホテル「パーク ハイアット ニセコ HANAZONO」を出発し、京極町の「ふきだし公園」や美笛峠、支笏湖畔を通って新千歳空港に向かう約160kmです。走行時間は約3時間でした。

 メディアツアーなので、ドライバーはポイントポイントで交代しながら運転していきますが、今回は同乗者として元F3ドライバーで、車のインストラクターなどをしている佐藤晋也さんを助手席に迎え、クルマの解説や運転のアドバイスをもらいました。

 運転して筆者がまず驚いたのは、想像以上の加速性能です。EVほどではないものの、内燃機関かつ車重2トンを超えるクルマで、車高が高いSUVなのに一気に加速できるのです。これは追い越しの際、スッと前車を抜いてすぐ走行車線に戻れるので、追い越しに必要な距離が短くなり、安全かつ効率的に車線変更ができます。

 この加速感覚は、日本のSUVではなかなか見当たらないでしょう。佐藤さんは「加速は素晴らしいですが、ブレーキがよく効くからこそ安全に走ることができるのです」と、クルマで最も大事な「止まる」が安定してできることが、DBX707の良さだと話してくれました。

 DBX707には、「Terrain」「Individual」「GT」「Sport」「Sport+」の5パターンのドライブモードがあります。センターコンソール中央にあるダイヤルを回して好きなモードを選ぶのですが、途中から一番スポーティーな走りができる「Sport+」で走ってみました。

文字通り「思い通りの走行」が可能

 Sports+モードは、車高が下がるのでよりダウンフォースが効き、タイヤのグリップがより増します。筆者が走った国道276号の一部は曲がりくねった道路で下り坂でもあったのですが、DBX707は回頭性に優れ、スムーズにコーナリングできました。

「これだけのパワーを受け止められる、シャシーの剛性がしっかりあるのと、サスペンションの性能も高いので、自分が思ったラインを走ることができるのです」と佐藤さんは補足してくれました。サンルーフがついていると述べましたが、車の剛性が少々下がると思いきや全くそんなことはなく、軽快な走りが可能でした。

 SUVなので、車高が高くなり視界が良くなるのは理解できます。ただ剛性を出すために、Aピラーは一般的なクルマより太い印象を受け、乗車前は「左右の視界は良くないかもしれない」と想像していました。とはいえ、Aピラー付け根部分の窓が大きめということもあり、運転中の左右の視界も思ったより悪くありませんでした。

走りを重視するなら…

 前述の通り、海外ではスーパーカーならぬ「スーパーSUV」が好調です。ポルシェ・カイエンが2002(平成14)年にスポーツカーブランドで初のSUVを発売して以来、メルセデスベンツ、アウディ、ロールスロイス、フェラーリ、ランボルギーニなどの高級メーカーが次々とSUVを発売しています。SUVは儲かるうえにブランドイメージも毀損しないという、理想のクルマだからかもしれません。

 日本車で高級路線のSUVといえば、レクサスRXと日産アリアがあります。両車の走りも素晴らしいですが、どうしても快適性に重点を置かざるを得ない面があります。ドライビングの楽しさを重視したいというのであれば、“世界最強SUV”であるDBX707は選択肢のひとつだと筆者は思います。