横須賀港と新門司港を結ぶ「東京九州フェリー」。通常は「はまゆう」「それいゆ」で運航されていますが、多客期などには新日本海フェリーから「すずらん」「すいせん」が助っ人に。東京九州フェリーによる「すずらん」の船旅を紹介します。

「すずらん」は普段、新日本海フェリーが運航

 2021年より運航開始した「東京九州フェリー」。神奈川県の横須賀港(新港埠頭)と福岡県の新門司港のあいだ976kmを、下り(新門司港行き)21時間15分、上り(横須賀港行き)20時間50分で結びます。
 
 この航路は通常「はまゆう」「それいゆ」の2隻で運航されています。しかし予備船はないため、船がドック入りする時や多客期には、同じSHKグループの新日本海フェリーで運航されている「すずらん」「すいせん」が助っ人となります。

 新日本海フェリーの船舶は通常、船腹に「Shin Nihonkai」と書かれていますが、東京九州フェリーで運航されることがある「すずらん」「すいせん」には「Cruising Resort」の文字が。同社の広報によると、「ドック入り時などに、東京九州フェリーでも運航されるためです。なお『はまゆう』『それいゆ』を逆に新日本海フェリーで運航することもあります」とのことでした。

 普段の「はまゆう」「それいゆ」の排水量1万5400総トン、旅客定員286名に対し、「すずらん」「すいせん」は排水量1万7400総トン、旅客定員590名とより大型です。最大速力29.4ノット(54.4km/h)、航海速力27.5ノット(50.9mk/h)とフェリーとしては非常に高速で、接客設備も充実しています。

 筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2024年3月、“東京九州フェリー”が運航する「すずらん」に乗船。今回は2人用個室「スイート」を利用しました。

 ここは個室面積が46.6平方メートルで、さらに海を見られるテラス(床面積7.4平方メートル)も付いています。室内は玄関、リビング、ベッド、トイレ、バスルーム、テラスに分かれており、リビングには6人分の座席やテーブルがあります。ベッドは200×120cmで、寝心地も良好です。テレビモニターは2台もありますし、昼間の浴室では風呂に入りながら海を眺められます。トイレは浴室とは別です。

充実しすぎの船内設備を一挙紹介

 テラスは風切り音も小さく、扉を閉めれば室内は静か。当日はやや荒れ模様でしたが、大型船だけに振動はそれほどありませんでした。

 同船には、風呂がユニットバスである以外は「スイート」と大差ない2人用個室「ジュニアスイート」、旅館の和室風でテラス・ユニットバス付き2人用個室「デラックスA和室」、洋室のテラス・ユニットバス付き2人用個室「デラックスAツイン」、2段ベッドで上段が折りたためるトイレ付き4人用個室「ステート」、2〜3名用でトイレ付きの「ステート和室」、2人用でトイレ付きの「ステートAツイン」、ペットと過ごせるトイレ付き2人用個室「ステートウィズペット」、窓はない代わりにテレビがあり、プライバシーも保たれる1人用個室「ツーリストS」、ロールカーテンで個別に仕切られた解放船室「ツーリストA」があり、接客設備は盛りだくさんです。

 以前は内側からしか鍵がかけられなかった「ツーリストS」が外鍵付きに改められるなど、「すずらん」は2012(平成24)年進水のフェリーながら、現在でも改良が続けられています。

 ほかにも船内にはスポーツルーム、マッサージコーナー、ビジネスコーナー、ゲームコーナー、ショップ、大浴場、フォワードサロン、コンファレンスルーム、チルドレンルーム、アミューズボックス、自販機コーナー、カップ麺コーナー、ランドリーといった設備があります。

 特筆すべきは供食設備の豊富さで、「すずらん」では夜食、朝食、昼食、夕食と4回営業するレストランに加え、昼間時に営業するカフェ、そしてコース料理を提供する特別食堂「グリル」があります。さらに甲板でバーベキュー(船内予約制)も提供されますから、実質4つも供食設備があることになります。なおドライバー向け食堂もあるそうです。

「はまゆう」と違うところを探せ!

 さて、筆者は横須賀港へ向かうため新門司港から乗船しましたが、JR小倉駅からは門司駅を経由して新門司港に向かう無料送迎バスが運行されています。新門司港発は23時55分です。

 出航から1時まではレストランの夜食営業があります。これは、新日本海フェリー運航時は夜食営業しないので、東京九州フェリーでの運航時ならではの光景。なお普段の「はまゆう」「それいゆ」でも夜食営業を行っています。

 食事の高いクオリティやメニューの豊富さは普段の東京九州フェリーとほぼ同じです。なお、翌日のバーベキューは抽選制なので、翌朝9時までに用紙を記入して箱に入れるよう案内がありました。

 翌朝、レストランで朝食を楽しんだ後で大浴場を訪れました。露天風呂とサウナが備わる構成は「はまゆう」と同じですが、こちらには脱衣場内に飲料自動販売機とマッサージ椅子もあります。

 続いてゲームコーナーへ。クレーンゲームや「太鼓の達人」が楽しめます。スポーツコーナーには「はまゆう」と同じく自転車やウォーキング器具がありますが、卓球台があるのは異なります。案内所で卓球道具を借りてプレイすると、船内では台も揺れるので、普段とは異なる感覚でした。

 10時ごろに、東京九州フェリーが運航する「はまゆう」とのすれ違いが見られるとの告知があり、甲板には人が集まっていました。お互い高速フェリーなので、すれ違いはあっという間でした。

 午前中には、景色のよい場所に設けられたカフェの営業も行われます。こちらも「すずらん」「すいせん」だけのサービス。本格的な調理がなされたパスタやそば、飲料なども楽しめます。

特別食堂「グリル」へ

 そうこうしているうちに昼食に。レストランで「北海道味噌バターコーンラーメン」と「知床塩ラーメン」を食べ比べました。ちなみに夕食メニューには「とんこつ醤油ラーメン」もあります。

 バーベキューは昼食後に行われます。海が見られるレストラン後ろの甲板にて、ホットプレートで新鮮な肉や野菜を焼くのは実に楽しい時間です。食事後はコンファレンスルームで映画鑑賞。大型スクリーンを前に階段座席があり、本当に「映画館」でした。

 映画を楽しんだ後は、旅の最後を彩る特別食堂「グリル」へ。普段の東京九州フェリーにはない設備で、事前予約が必要です。コース価格は乗船時で6000円。レストラン前で支配人が出迎えてくれるなど、高級なレストランを感じさせるおもてなしです。神奈川と九州の食材を中心とした料理の数々も十分に満足できるものでした。

 東京九州フェリーの代打として登場した「すずらん」「すいせん」ですが、グリルが上級船室でも有料であることを除けば、有料新日本海フェリーでの運行時と同等のサービスが提供され、心底満足できる21時間の船旅でした。なお、クルーも新日本海フェリーの時と同じとのことです。

※末尾を修正しました(4月23日10時40分)。