「消費者が問題を認識しないと、子どもたちの食べるものがなくなる」――。キャベツの出荷量全国1位と農業が盛んな愛知県。しかし現場では高齢化による農業の担い手不足が続いています。農業法人も含めた農家は、2005年に約200万戸いましたが、2023年2月で54%減の約93万戸に。日本の農家の現状と未来を深掘りします。

「食べておいしかったよ」一番のやりがいは消費者の声

農家の小川浩康さん

田原市でトマトづくりに励む農家の小川浩康さん。会社員を経て8年前に農家に転身。両親や祖父とともにミニトマトを育てています。「『食べておいしかったよ』と言ってもらえることが、一番のやりがい」と話す小川さん。しかし円安が暗い影を落とします。ハウス内を温める暖房機を使用しなくてはいけないため、電気代や重油代高騰が痛手に。さらに市場の取引価格には上乗せできないのです。

小川さん:
「全般的に値上がりしているので、(収入を維持するのは)もうかなり難しいです」

「子どもたちの食べるものがなくなる」

農業経営体数

三菱総合研究所の推計によると2050年には農家の数が今より8割減る見通しです。日本の農業政策に詳しい東京大学特任教授・鈴木宣弘さんは「このままでは将来、子どもたちの食べるものがなくなる」と警鐘を鳴らします。

東京大学特任教授 鈴木宣弘さん

東京大学特任教授 鈴木宣弘さん:
「農業問題は消費者の問題でもあります。消費者、国民が自分の問題として認識しないと間に合いません。現場の農業・農村を見たら、赤字です。みんなコストが上がってもそれを価格転嫁できず、どんどん倒産しています」

農家を身近に感じてもらいたい

ミニトマトをネット販売

農業の危機的状況を変えようと、小川さんはインターネット販売を始めました。「少しでも売り上げを増やすためには、自分で決めた価格に対して、価値を見いだしてくれた人に買ってもらいたい」と話します。

農カード

ネット販売では経費を価格に上乗せできるため、市場の約3倍の価格で販売しています。さらに生産者を身近に感じてもらいたいと「農カード」を作成。「直接売り上げにつながるのは難しいが、最終的に購入につながれば良い」と話します。

小川さん:
「『農業が大変なんです』と言っても伝わらない。まずは接点を増やすことから始めています」

農家と独占契約を結んで独自の商品展開に

カネトク代表 内藤良太郎さん

星ヶ丘三越の地下一階にある青果店「カネトク」では、農家を助ける取り組みを始めました。一部の値札には、農園の名前が記載されています。カネトクは、農家と直接取引をしていて、農家の野菜を高く買い取っていました。

カネトク代表 内藤良太郎さん:
「市場が休みの日でも、とれたての野菜が手に入るんです。農家さんと独占契約を結んでうちにしかないものを置いています」

サニーレタスはコンテナに入れたまま出荷

2023年2月からカネトクと直接取引を始めた岩本拓也さん。この日、約300個のサニーレタスを収穫しましたが、専用のコンテナに詰めるだけ。農家で大変な作業となる袋詰めは行わず、カネトクのスタッフが行います。

青果店のノウハウを活用

カネトクがラッピングして値付けする

内藤代表:
「売れる量、売れる価格はうちにノウハウがあります。そのノウハウをもとに、ラッピングして値付けするほうが売れます」

この日の岩本さんのサニーレタスの販売価格は238円。市場で仕入れたサニーレタスは214円です。ブランディングすることで販売価格が高くても売れる仕組みです。

これらの工夫でカネトクは、全国の三越で、売り上げナンバーワンの青果店に成長しました。

農家と直接やり取りする

内藤代表:
「少量でも良いものを作る農家さんと直接やり取りをして店頭に並べます。お客さんの評判がとれたものについてはブランディング化して販売することによって、価格を高くすることができます」

ネット販売や直接取引など、自身の商品に付加価値をつけて適正価格で販売することが、農家を助ける大きな手段となっています。

※記事内で農家の減少率を誤って「46%減」と記載していました。「54%減」に修正しました。お詫びして訂正します。