1995年の渋谷を舞台にしたテレビ東京開局60周年連続ドラマ ドラマプレミア23「95」(毎週月曜夜11時06分)。ドラマの撮影裏話とともに1995年を考察する短期集中連載、第3回は【1995年のファッション②】。

1995年、流行の発信地だった“渋谷”を生きる若者たち。帽子、靴、アクセサリーから、ポケベル、音楽プレイヤーなど持ち物すべてを揃えた持道具担当・濵井智子さんの“知っているとよりドラマを楽しめる”撮影秘話を交えつつ、当時の流行や懐かしいアイテムを振り返っていこう。

【動画】“渋谷浄化作戦”チーマー狩りを敢行

Qのキーホルダーの秘密


記事画像ドラマプレミア23「95」第5話より

星学ボーイズ(髙橋海人、中川大志、細田佳央太、犬飼貴丈、関口メンディー)やセイラ(松本穂香)たち女子高生のファッションが「懐かしい」と話題のドラマ「95」。連載第2回で紹介した衣装とともに、小物やアクセサリーには、時代の象徴かつ各キャラクターの個性を際立たせるためのこだわりがある。

1995年、若者のトレンドは「キムタク」「ポケベル」「エアジョーダン」だった。

当時、アイドルの枠を超えブレイクした “キムタク”ことSMAPの木村拓哉は、女性だけでなく男性にもカリスマ的な人気を誇り、ヘアスタイルやドラマで着用した衣装・アイテムをマネする人が続出。

アクセサリーは、折からのアメカジブームに加え、キムタクが愛用していたことも相まって「goro’s(ゴローズ)」のネイティブアクセサリーが注目を集めるように。また、氷室京介やキムタクなど芸能人にもファンが多いアメリカ西海岸発のブランド「CHROME HEARTS(クロムハーツ)」のシルバージュエリーも、彼らがメディアで着用したことでより一層人気となった。

記事画像ドラマプレミア23「95」第5話より

こうした流行を取り入れ、ドラマ「95」でも、Qはネイティブのペンダントトップを、翔(中川)やカリスマモデル・宝来隼人(鈴木仁)はシルバーのネックレスを身に着けている。

記事画像ドラマプレミア23「95」第3話より

1995年といえば、映画「スピード」(1994年公開)でキアヌ・リーヴスが付けていたカシオのG-SHOCKがブームになったが、「城定秀夫監督や演者さんたちと、星学メンバーはキャラ的に『時計はなしにしよう』という話になり、それぞれの個性が出るアクセサリーを付けることになったんです」(持道具・濵井さん、以下同)とのことで、Qたちの小物には随所にこだわりが。

記事画像ドラマプレミア23「95」第2話より

「スクールバッグに付けているキーホルダーは、レオ(犬飼)は音楽が好きだからギターを、マルコ(細田)はおちゃらけキャラだからカラフルなものを…と、それぞれのアイテムを考えました。他にも、マルコにはサイコロが連なったウォレットチェーンや派手めなハットやキャップを用意するなど、ひとりひとりのキャラクターを強調。レオのヘッドフォンは監督のアイディアで、『いつも首に付けているキャラにしたい』とのことから1995年当時に売られていたものの中でレオに似合うものを探しました」

記事画像ドラマプレミア23「95」第3話より

第2、3話で、内面の変化とともに服装やヘアスタイルが大きく変化したQ(髙橋)には、持ち道具にも細かな仕掛けがあるそう。

「Qのウォレットチェーンのキーホルダーはビリヤードのナインボールで、“Q”と数字の“9”をかけたもの。イエローも、髙橋さんのメンバーカラーにこっそりかかっています」

さらに、Qのスロットマシンのキーホルダーには、演じる髙橋さんの遊び心も。

「Qがご機嫌な時は、数字をトリプルセブンにするなど、髙橋さんご自身もアイディアを提供してくださいました。Qが喜んでいる時は画面に注目してみてください。もしかしたら髙橋さんご自身が揃えた“777”の数字が映っているかも?」

人気ゆえの「エアマックス狩り」


時計やアクセサリー以外にも、靴、カバン、帽子など持道具の仕事は多岐にわたる。「靴やカバンもキャラクターに合わせたものを選びました」とのことで、比較して見ると面白い。

上記の1995年のトレンドのひとつ「エアマックス」。依然として大ブームのスニーカーは、この年に発売されたNIKE(ナイキ)の「エアマックス95」の登場を機に異常な事態を引き起こす。あまりの人気ゆえ定価1万5000円のエアマックスが10〜20倍の値段にまで高騰。「エアマックス狩り」と呼ばれる強奪行為も頻発した。

記事画像ドラマプレミア23「95」第5話より

また、第5話でチーマーがカツアゲしようとした「RED WING(レッド・ウィング)」のワークブーツも常に品薄状態。前回紹介した「裏原ブーム」や翌1996年に発売された「たまごっち」の一大ブームもあって、希少性の高いアイテムを買い占めて転売する、今で言う“転売ヤー”が問題になり始めたのもこの頃だ。

若い女性には、1995年頃からの“アムラー”(安室奈美恵のファッションをマネした若者)ブームにより厚底ブーツやロングブーツが流行。持道具の濵井さんは1998年に生まれたそうで、「リアルタイムでは知りませんが、雑誌や資料を見たり、当時を知るスタッフさんにお話を聞くことで、よくも悪くも熱かったその時代の空気を感じながら各アイテムを揃えました」とのこと。“ファッションは20年周期で繰り返す”というが、近年ちょうど流行が巡ってきているためアイテムを探すのは難しくなかったそう。

そんな“靴”についての撮影秘蔵話も。

「冬場に夏のシーンを撮る際、中川さんの提案で翔はビーチサンダルに。サンダルでのアクションは大変そうでしたが、シーンごとに、たくさんの靴を準備しなければならない我々を気づかってくださったのだと思います。髙橋さんは星学メンバーの中で一番の寒がりということもあって、スニーカーで撮ることになりました(笑)」

夏のアクションシーンでは足元にも注目!

女子高生の三種の神器


記事画像ドラマプレミア23「95」第5話より

1995年のトレンド最後のひとつ「ポケベル」も、時代を象徴するアイテムとして劇中に登場する。

「ポケットベル(通称:ポケベル)」とは、携帯電話が普及する前の1980年代後半から1990年代中旬に使用されたポケットに入るほどの小型の無線受信端末。外出中の人に発信者の番号を知らせるビジネスマン向けの無線呼び出し機だったが、1987年にディスプレイによる文字表示サービスを開始して以降、若者たち間で爆発的に流行。高校生を中心に一躍ブームを巻き起こし、ルーズソックス、プリクラとともに「女子高生の三種の神器」と呼ばれた。

記事画像ドラマプレミア23「95」第2話より

自然発生的に広まった渋谷=428、行くよ=194、会いたいよ=11014などの語呂合わせに加えて、第2話でQが「スカウトされた」と星学ボーイズにメッセージを送ったように、数字の組み合わせで文字が打てるサービス(※あ=11、い=12、う=13、か=21、さ=31 など)が開始されたことで、全国の高校生たちが飛びついたのだ。

携帯電話はおろかPHSもない時代だったが(PHSは1995年7月より東京・北海道地区でサービス開始)、親や家族に干渉されることなく友達や気になる異性と連絡がとれることは、当時の高校生の胸を高鳴らせるには十分。第1話で、Qはマルコと翔(中川)からかかってきた電話を家族全員が揃うダイニングで受けていたが、それがポケベルが登場するまでの高校生の日常だった。

1993年には、ドラマ「ポケベルが鳴らなくて」(日本テレビ)がヒット。第5話では、同ドラマの同名主題歌が効果的に使われていたが、加入者数が1077万人を突破した1996年をピークにブームは尻すぼみに。一時は「生徒がプッシュボタンを押しすぎて公衆電話が壊れた」とニュースになるなど社会問題にもなったポケベルだが、瞬く間にPHSや携帯電話のメール機能に取って代わられることになる。

ポケベルと時を同じくして普及したポータブルCDプレーヤーや、後発のMDプレーヤー、第2話に登場した対戦型ゲーム(『ストリートファイターⅡ』)も、当時を象徴するアイテム。なお。次世代家庭用ゲーム機「PlayStation(プレイステーション)」は1994年12月に発売された。

ポケベルはじめ電子機器は「現物はあっても使えるものが少ないのでネットオークションやフリマサイト、秋葉原の中古家電店などで、使用可能なものを見つけました」と、探すのには苦労したそう。

また、タバコにもこだわりが。細田×犬飼×関口のインタビュー記事では「1995年で驚いたこと」として高校生の喫煙を挙げていたが、劇中でタバコをくゆらすシーンも多い。劇中に登場したハイライトは、美術担当者が作ったもので、パッケージは当時のものを再現し、中はネオシーダー(タバコの葉やニコチンを含まないもの)をハイライトの紙で巻き直して作ったものなのだそう。画面に映るかどうかわからないところまで、精巧に作り込まれている。

Qらが使うZippo(ジッポー)のライターは、喫煙者である監督が使い方を直接指導。指で弾いてZippoの蓋を開ける。ジーンズの腰の部分で擦って着火する。今となればどうでもいい美学を、みんな真剣にやっていた時代だ。

「私にはそのよさがイマイチよくわからなかったんですけど(笑)、監督がカッコいい火の着け方を教えていました。監督はまず最初に俳優部に自由に演技をしてもらうタイプなので、星学メンバーそれぞれが『ここはタバコ吸った方がいいかな?』『このシーンは何か飲んだ方が気持ちが伝わるよね?』と意見を出し合って、みんなで相談しながら撮影していました。本当の学校みたいに仲のいい現場でした」

こうしたスタッフとキャストのこだわりが、1995年の渋谷を生きるQたちに息吹を吹き込んでいるドラマ「95」。後半戦も画面の隅々まで目を凝らしたい。

来週公開の第4回は【1995年のヘアメイク】。チーマーやコギャルに流行した、細眉、カラフルなアイシャドウ、薄い前髪…など、象徴的な当時のヘアメイクの再現について話を聞く。

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【ドラマ「95」連載③】1995年 若者のトレンドは「キムタク」「ポケベル」「エアジョーダン」
ドラマ「95」短期集中連載
第1回は、【ドラマ「95」連載①】なぜ渋谷が若者文化の発信地となったのか?
一体どんな年だったのか? 1995年の基礎知識を
第2回は、【ドラマ「95」連載②】「布の面積少なっ!」キャストも驚くコギャルファッション
1995年のファッションについての考察と、衣装担当者が語る裏話を公開!
第4回以降もお楽しみに!

テレビ東京開局60周年連続ドラマ ドラマプレミア23「95」(毎週月曜午後11時6分)第6話は?

第6話
秋久(髙橋海人)はセイラ(松本穂香)との一夜に後悔を抱きながらも、もう一度“みんなで”花火を見ることを約束する。渋谷で花火を打ち上げるという秋久の超ド級の提案は翔(中川大志)らにすぐ受け入れられる。早速、スポンサー集めや役所など “オトナたち”との交渉しに奔走するが夏に間に合うはずもなく…。夏休み最終日、メケメケに集まったメンバーは、たったの4人。そんな中、翔が何者かに襲われてしまう…。

(取材・文/橋本達典)