子どもの成長に欠かせない学校給食。物価高騰で給食費の値上げが相次ぐ一方、無償化に踏み切る自治体が全国で相次いでいます。県内では、四つの自治体が無償化に踏み切っていますが、財政事情から一部にとどまっています。去年から無償化を始めた阿賀町の現場と、県内の市町村長を対象に実施したアンケートから、給食費のあり方を考えます。

阿賀町の町立津川小学校。全校生徒98人がランチルームに集まってきました。これから給食の時間です。この日のメニューは鳥ごぼう丼と、切り干し大根のツナあえ。コシヒカリとホウレンソウは地元産。自慢の食材です。
■児童ら
「(手を合わせてください)いただきます!」
「(記者Q:何がおいしかった?)そぼろです。」
「(記者Q:給食は楽しみ?)楽しみですね。」
「食べるのが好きだから、給食の時が学校で一番楽しみ。」

地元の食材をふんだんに使ったこの給食、本来なら年間で小学生が約5万6千円、中学生が6万3千円かかる保護者負担が、去年から0円になりました。

■阿賀町 神田一秋町長
「給食は等しく小学生・中学生、食べる、栄養をとるという大事な大事なところ。しっかり子育ての支援を町としてもより強めていきたいなという思い。」

無償化の対象は364人。費用は今年度で2910万円に上ります。食材の値上がりを受けて、昨年度より負担は160万円増えました。人口約9200人の町にとって小さな額ではありません。それでも無償化したのは、町が直面する現状があります。
先日公表された民間研究機関の分析では、若年女性が30年間に50%以上も減る「消滅可能性自治体」に阿賀町が入りました。
■阿賀町 遠藤左教育長
「かなり深刻に受け止めてまして・・・。いかにそのまま阿賀町に生まれた子をとどめるか、それから阿賀町の町外からいかに呼んでくるかということを考えていかなきゃならない。」

無償化は、「地元で安心して育ってほしい」という、子育て世帯へのメッセージといいます。
■阿賀町 神田一秋町長
「阿賀町の子育てから一貫した部分での政策をぜひ皆さんにも、私としてもご理解をいただきながら、人口の問題にも良い効果を発揮していくように、進められたなというふうに思っております。」

文部科学省は月12日、給食費の無償化に関する全国調査の結果を発表しました。小中学校で無償化している自治体は、去年9月時点で547自治体と全体の約3割。前回の2017年度調査の76自治体から、約7倍に増えました。

【解説】
UXは給食を実施している29の市町村長に対し、学校給食費のアンケートを実施。全員から回答を得ました
県内で給食を実施しているのは、県内で粟島浦村を除く29市町村。
このうち無償化してるのは阿賀町、妙高市、湯沢町、弥彦村の4市町村。これらの自治体の共通点は、比較的規模が小さいこと、そしていずれも首長が選挙の際に公約に掲げるなど、トップ主導で実現した点です。
第3子以降など一部の子どもを無償化していたのは、新発田市・聖篭町・関川村・田上町・見附市・村上市の6自治体。
一番多かったのは、一定額を補助する自治体で、阿賀野市・出雲崎町・糸魚川市・魚沼市・小千谷市・上越市など15自治体。一食当たり10円から160円あまりまで幅があります。
支援を実施している自治体は、「物価高騰対策」を理由に、2022年度以降に始めていました。保護者の負担軽減を通じた「子育て世帯への支援」です。一方、補助をしていないのは、新潟市や長岡市など4つの自治体。人口が多い自治体が含まれているのが特徴です。

新潟市では去年以降、無償化を求める署名が提出されています。しかし、今のところ実施しない考えです。

■新潟市 中原八一市長
「新潟市の学校全部をやると大変多額の金額を要することになる。新潟市の財政力としては、現時点では給食の無償化を実現する余裕はない。」

アンケートでも、支援の有無にかかわらず、財政負担が大きいとの声が多く寄せられました。
一方、全国に目を向けると、市町村超えた県単位で新たな動きが出ています。青森県では今年10月から、無償化する自治体に交付金を渡す仕組みで無償化を始めます。和歌山県でも、無償化する市町村に補助する仕組みを打ち出しました。
これに対し花角知事は。

■花角英世知事
「予算編成の過程ではいろいろな検討はしています。」

仮に県が無償化の費用を負担する場合、対象となる児童・生徒の数は約15万人分。年間で数十億円の費用がかかる計算です。

■花角英世知事
「無償化をやるためのお金がどのぐらいかかり、それが本当に子育て支援ということで、どういう効果を生むのか、よくよく検討が必要。」

UXのアンケートでは、自治体でばらつきが出ている現状について支援を実施しているかどうかにかかわらず、「好ましくない」と回答。次のような意見が寄せられました。
■弥彦村・本間芳之村長「自治体によって差異が生じないように、国で無償化を実現してもらいたい。」
■三条市・滝沢亮市長財政力等による自治体間の格差を生む・・・国が責任をもって取り組むべきものであると考える。」

子育て政策の充実を掲げる岸田総理は、無償化について。

■岸田文雄総理
「児童生徒間の公平性等の観点から実態を把握した上で課題を整理する必要がある・・・。」

国は今のところ、慎重姿勢を崩していません。一方、なぜ給食費をめぐる議論が、盛り上がっているのか。教育学が専門で、給食費に詳しい新潟市出身の福嶋尚子・千葉工業大准教授に聞きました。
■千葉工業大 福嶋尚子准教授
「一番大きいのは、物価高騰が一気に進んだことだと思います。家計にダメージが出ていて、また給食費も据え置くのが難しい状況。そのなかで値上げをするか、それともいっそ無償にするかというなかで、無償にかじを切る自治体が少しずつ増えていった。」

一方で、こう指摘します。
■千葉工業大 福嶋尚子准教授
「その結果、残念なことに前に進めないところと格差が出ている。これが固定化していくことは望ましいことではない。」

福嶋さんは、給食費の無償化が「家計の補助」という点にとどまらず、給食そのものが「子どもが等しく持つ権利」であることを知ってほしいと強調します。
■千葉工業大 福嶋尚子准教授
「国も何らかの負担を負う形で、国全体で全国で一律に無償が進んでいくことを目指していくために、今は一つ一つの自治体でそれを進めて、なぜ無償がよいのか、無償にするとどんな良いことがあるのか。それを共有していく。それが大事」

【解説】
無償化に向けた課題の一つは「学校給食法」で給食費は設備費などを除いて「保護者の負担」と定めていること。この規定は、自治体による補助などを妨げるものではありませんが、アンケートでは、国一律の無償化に向けて「学校給食法の改正」を求める意見が寄せられました。
さらに国が挙げているのは「公平性」の問題。給食を実施していない自治体やアレルギーなどで給食を食べていない児童生徒がいることや、自治体間で給食費に開きがあることを挙げています。
他には「給食費は保護者が払うもの」との考え方も根強くあり、胎内市の井畑市長は「給食費を払うことは扶養義務の根幹」、刈羽村の品田村長は「親が子の『衣食住』に責任を持つのは当たり前」と回答しました。
県内自治体へのアンケートでは、給食の目的から考えると、食材費の高騰に対応するため、食材を変えて質を落としたり量を減らしたりすることが難しい、という声が多く聞こえました。南魚沼市の林市長は「給食の質の低下が懸念される事態になったため、自治体として食材費の上乗せ分を補助し、質を維持することにした」としています。
また、国が掲げる「食育の推進」との間で板挟みになっている事例もありました。小千谷市などでは地元産のコシヒカリの購入するための補助を実施していました。
現状「補助だけでも負担なのに、無償化は相当きつい」というのが多くの自治体の本音のようです。