市販カーナビの販売台数がコロナ禍以降、急減しています。2018年に614万台を販売して以降、販売台数は落ちていく一方で、2023年にはついに2018年の3分の2ほどになってしまいました。その背景には何があったのか、またカーナビ販売台数の復活はあるのかを探ってみたいと思います。

2018年の614万台から2023年は3分の2にまで市場が縮小

 初めての場所へクルマで出かける時、カーナビゲーションなしでたどり着ける人はそう多くはないのではないでしょうか。

 カーナビの普及率はいまや8割を超え、軽自動車から高級車に至るほとんどのクルマにカーナビは装備されているほど。言い換えれば、それだけ多くの人がカーナビを頼りながらドライブを楽しんでいると言っても過言ではないのです。

 そのカーナビが、GPSに対応して登場したのが1990年のこと。そこから本格的な普及期に入ったのは2000年を超えたあたりからです。その後、カーナビはグングンと販売台数を伸ばし、2018年にはついに1年間に614万台を販売するまでに至りました。

 まさにカーナビは21世紀を迎えると同時に人々の間に浸透していったと言えるでしょう。

 そんな好調ぶりにストップをかけたのがコロナ禍でした。

 世界的に猛威をふるったこの感染症は人々の外出する気分をなくし、カーナビの生産に必要なパーツの供給にも影響を及ぼしました。

 この影響もあってカーナビの販売台数は急減します。2020年は前年比86.1%の520万台にまで落ち込み、2021年に476万台、2022年に440万台、そして2023年は392万台と、その状況はまさに坂道を転げ落ちるかのようでした(JEITA:一般社団法人電子情報技術産業協会調べ)。

 ただ、カーナビの販売台数急減の要因は、単にコロナ禍だけではなかったようです。

 というのも、WHOが2023年5月にコロナ禍による緊急事態の宣言を終了する発表を行った後もカーナビの販売台数の落ち込みは止まらず、2023年には年間を通しても5年前の2018年のピーク時と比べて3分の2にまで減少してしまったからです。

 その背景にはいったい何があったというのでしょうか。

 よく言われるのが、ディスプレイオーディオ(DA)の台頭です。

 ディスプレイオーディオは、スマホにインストールしたアプリを車載器上で展開できるのが最大のメリット。その中にはカーナビ用アプリも含まれ、他にも音楽や映像などを楽しむことができます。

 さらにカーナビ機能を含まないことで価格を抑えることができ、それがカーナビの販売台数減に影響を及ぼしたのではないかというわけです。

 私は、この推論は間違いとは言えないまでも、直接の影響はそれほど大きくはなかったと考えています。

 というのも、ディスプレイオーディオの価格は自動車メーカーの純正モデルではその差は大きいものの、市販モデルではカーナビの低価格モデルとそれほど差がないからです。

 実際、カー用品店で話を聞いてみても、カーナビの売上に影響するほどディスプレイオーディオが多く売れているという話は聞きませんでした。

 そこで浮かび上がってくるのがカーナビのIn-Vehicle Infotaiment(以下:IVI)への転換です。

それでも市販カーナビにしかないメリットとは

 じつはコロナ禍の間に、車載ではコネクテッドが進む中で、IVIを搭載するクルマが急速に増えていました。

 Infotaiment(インフォテイメント)という言葉そのものは、「情報(インフォメーション)+娯楽(エンターテインメント)」を意味する造語です。つまり、IVIとは車載されたIT機器によって、情報と娯楽の双方を提供するシステムのことです。

ホンダ新型「アコード」のIn-Vehicle Infotaimen(IVI)。車両側の様々な設定がこの画面上から行える

 このシステムの利用範囲はとても広く、単に車内だけにとどまらず、家庭やオフィスなどとシームレスな接続によって機能を発揮させることができます。そこではドライブに求められる多彩なサービスが想定され、カーナビもひとつのアプリとして扱われます。

 簡単にいえば「スマートフォンが車載化されたもの」とするとわかりやすいかもしれません。

 一見してディスプレイオーディオとあまり違わないように見えますが、IVIとの決定的な違いは、ディスプレイオーディオができていなかった車載側との連携ができていることにあります。

 ディスプレイオーディオの場合、大半が車載側と機能が切り離されて動作していますが、IVIでは車両側の安全運転支援システム(ADAS)やエアコンの操作と言った機能も含まれます。ここに大きな違いがあるのです。

 さらにディスプレイオーディオで課題となっていたカーナビの測位精度についても、車両側との連携が可能となることで解決できるのはIVI化の大きなポイントと言えるでしょう。

 また、IVIはグローバルでシステムを共通化することができるため、インターフェースも同じにでき、自動車メーカーにとっては何よりもコスト削減が可能となるのは大きなメリットとなります。もちろん、カーナビのようにローカライズが必要となる機能もありますが、それこそIVIに対応するアプリを地域ごとに提供してもらえばいい話です。

 さらに今後は、IVIそのものがアンドロイドOSで動作する状況が当たり前になる可能性も出てきました。

 Google(グーグル)は2017年に自動車自体にインストールできる新たなOS「Android Automotive(アンドロイド・オートモーティブ)」をリリースし、その第一号が2020年から搭載を進めたボルボで、ホンダも新型「アコード」に搭載して日本でも発売を開始したところです。

 また、今後はフォードや日産/ルノー/三菱のアライアンスも採用する見込みとなっています。

 アップルもこの対応を急いでいるとされ、アップルがEV開発の中止を決めたのも、この開発に注力するためだったのではないかとの噂も出ているほどです。こうした状況は今後ますます進むのは確実で、今後も市販カーナビの販売減は止まらないのではないと予想します。

 もちろん、市販カーナビも指をくわえて見過ごしているわけではありません。各社ともさまざまな対応策でユーザーの心を引き留めようと懸命です。

 中でも熱心なのがパイオニアで、市販カーナビならではの使いやすい環境の提供や、コネクテッド化を進めることでさまざまなメリットを提供してくれています。

 たとえば、地図データ更新の自動化や音声での目的地検索、さらには天気予報、ガソリン価格情報、駐車場間空情報など、ドライブに必要な情報をリアルタイムで提供。車内でのWi-Fiスポット化なども実現し、コネクテッド時代に合わせた展開を積極的に進めているところです。

 また、IVIと同時に進められているディスプレイの大画面化に合わせ、市販カーナビも大画面化が急速に進んでいます。特にディスプレイ部をフローティング化することで、今まで大画面化が不可能だった車両でも大画面化を実現したことも、その裾野を広げるのに大きな意味があったと言えます。

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 それと意外に見過ごされがちなのが、市販カーナビの多くにはDVD/CDドライブが搭載されていることです。

 IVIの搭載された車両では、音楽や動画は基本的にストリーミングで楽しむことになっています。しかし、今もなお、CDやDVDを楽しんでいる人も少なくありません。市販カーナビはそういった人たちにとっても、ありがたい存在であることに変わりはないのです。

 コネクテッドによるIVI化が進む中で、市販カーナビの先行きは決して明るくないのは確かです。

 とはいえ、IVIはディスプレイオーディオと違って、車両側の情報を反映することで高精度なカーナビ機能を持つことを可能としました。その意味ではカーナビ機能の提供方法が変わってきたとも言えるのではないでしょうか。

 今後は、IVI化したシステムにどう魅力的なカーナビ用アプリを提供できるか、そこにカーナビメーカーの実力が試されるようになっていくのは間違いないのだと思います。