齋藤経済産業大臣は2024年3月29日の閣議後記者会見で、これまで2024年4月末までの期限とされてきたいわゆる「ガソリン補助金」を一定期間、延長すると正式発表しました。クルマのユーザーにはホッと安心できるニュースですが、予算は合計で6.4兆円弱、これはすべて税金で賄われています。今後はどうなっていくのでしょうか。

ガソリン補助金がなければ、消費税を1年間、7〜8%に減税できた?

 さる2024年3月29日、齋藤経済産業大臣は朝の閣議後の記者会見で、「エネルギー価格の激変緩和措置は国際情勢の緊迫化等を背景として、エネルギーの国際価格が急騰するなかで緊急対応として実施してきたが、燃料油については、中東情勢の緊迫化等を背景とした価格高騰リスクやさまざまな経済情勢を見極めるために、2024年4月末までとしていた措置を一定期間延長する」と表明しました。

 つまり、そもそも4月末で期限切れを迎えるはずだった「ガソリン補助金」は、またしても延長が決まったのです。

 ガソリン補助金は、2022年1月に「レギュラーガソリンの全国平均価格(以下、ガソリン価格)が170円を超えること」を発動要件とし、「1リットルあたり5円を上限に、石油元売り各社に補助金を支給する」という枠組みではじまりました。

 しかしその後の原油高や円安などでガソリン価格は急騰、「1リッターあたり5円」では、とても価格の高騰を抑えることが不可能になりました。

 そのため補助金の額は市況に応じる形で数度にわたり見直され、現在は「2023年10月5日から2024年4月30日まで、基準価格168円、ガソリン価格185円までは5分の3を補助、185円を超える分は全額を補助」となっています。

 そして5月以降については、この内容をそのまま踏襲し「一定期間延長すること」となりました。

 ではこの補助金で、ガソリン価格はどのくらい抑制されているのでしょうか。

 資源エネルギー庁は「4月8日時点でのガソリン価格は174.6円だが、補助金がない場合は198.7円となり、23.5円の引き下げ効果があった」としています。

 もし今回の延長がなければ、ゴールデンウィークのまっただ中にガソリン市場価格が大幅に値上がりし、「レギュラーガソリン1リッター200円」が現実のものとなり、クルマで行楽を楽しむ人々の出足に大きな影響が出たことは間違いありません。

 ただこのガソリン補助金の延長が、手放しで喜べるわけではないというのも、厳然たる事実です。

 延長にあたっては、すでに確保済みの2022年度第2次補正予算と2023年度補正予算を充て、新たな費用の支出はないものとされていますが、2022年1月からこの事業に費やされた(また費やす予定の)予算は合計で6.4兆円弱(灯油、重油、航空機燃料含む)にも上っています。

 これは年間の消費税収の4分の1以上にあたる額で、もしガソリン補助金がなければ、消費税を1年間、7〜8%に減税できたのでは?とも考えられるわけです。

いつまで続けるのかは「示せないです」と齋藤経産大臣

 また一方で「トリガー条項」との関係も、気にかかるところです。

燃料油価格激変緩和補助金(ガソリン補助金)の効果

 トリガー条項とは、ガソリン価格が1リッター160円を3カ月連続で超えた場合、1リッターあたり53.8円かかっているガソリン税のうち、「当分の間税率」とされる25.1円分を免除する仕組みです。

 これは2010年に導入されましたが、2011年に発生した東日本大震災の復興財源確保のため凍結され、現在もその状態が続いています。

 しかしトリガー条項発動での税収減は、1年あたり1兆5700億円とされていることから、その凍結解除のほうが、ガソリン補助金よりも財政支出が少なく、また「税金を石油元売りに補助金として投入し、市場価格に反映させる」というまわりくどい手法よりも、すっきりしたのではないでしょうか。

 齋藤経済産業大臣は、冒頭に引用した記者会見における質疑応答で「どういうふうにやめていくかというところがこの先非常に大事では?」と問われ、「原油価格の急騰が、国民生活や経済活動に与える影響を軽減すべく、一時的な緊急避難措置として実施しているというのが基本的考え方で、GXや脱炭素化等を進めていく観点も踏まえると、本事業はいつまでも続けるものではない」と答えています。

 しかしその一方で「出口戦略を描くにあたっては、国民生活や経済活動への影響も考慮しなくてはならない」とし、いつまで続けるのかについても「示せないです」と、その見通しを明らかにしませんでした。

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 現在、政府与党である自民党は“裏金問題”で支持率を落としており、2024年秋には岸田総理大臣が自民党総裁の任期満了を迎えることから、政局は波乱含みとも言われています。

 選挙直前のガソリン実売価格高騰は、与党にとって大きなダメージになると考えられることから、解散、総選挙をにらんだ状況では、補助金事業のさらなる延長が続く可能性もありそうです。

 しかしそれは、税金の不透明とも言える使われ方が継続していくということでもあります。

 原油高、そしてそれに拍車をかける円安はすでに既定の事実として、クルマのユーザーは「1リッター200円」の現実を受け止めなければならない時期に来ているのではないでしょうか。