イタリアの高級自動車メーカー、マセラティは積極的に電動化を進めています。イタリア語で「稲妻」を意味するフォルゴレはEVに付けられる名前ですが、今後グランツーリズモ、グレカーレ、グランカブリオの3台にとどまることなくバリエーションを増やしていく予定です。そんなマセラティの電動化戦略を象徴するイベント、「フォルゴレ・デイ」が開催されました。

マセラティの電動化を示すイベント「フォルゴレ・デイ」を開催

 ニューモデル「グランカブリオ・フォルゴレ」の発表にあわせて、マセラティは“フォルゴレ・デイ”という名のイベントをアドリア海に面したイタリアの街リミニで開催しました。

 フォルゴレはマセラティのBEV(電気自動車)に与えられる名称で、もともとは「雷鳴」や「稲妻」を意味するイタリア語。電気のチカラで走るマセラティのパワフルなモデルにぴったりな名前といえます。

 今回のイベントでは、マセラティ首脳陣によるプレゼンテーションに続き、電動化技術、フォーリセリエ(オーナーの好みにあわせてカスタマイズするマセラティ独自のプログラムのこと)、電動ボートの「トリデンテ」などに関するワークショップも実施されました。

 このなかで、私にとってもっとも興味深かったのはマセラティの電動化技術に関するプレゼンテーションでした。

 現在、ヨーロッパで発売されているマセラティのBEVは「グラントゥーリズモ・フォルゴレ」、「グレカーレ・フォルゴレ」の2台で、これに今回グランカブリオ・フォルゴレが加わった形ですが、プラットフォームとしてはグラントゥーリズモとグランカブリオの3モーター系とグレカーレの2モーター系に分かれます。

 このうち3モーター系のプラットフォームについてはグラントゥーリズモの試乗記でご紹介したとおり、前輪を1基のモーターで、後輪を2基のモーターによって駆動するもので、後輪の駆動力に左右で差をつけてクルマがみずから曲がろうとする力を生み出すトルクベクタリングを実現しているのが特徴のひとつです。

 また、グラントゥーリズモ・フォルゴレはプラットフォームの多くをエンジン車と共用していることもあり、運転席と助手席の間にはプロペラシャフトを通すためのセンタートンネルが存在します。そこで、このセンタートンネル内にバッテリーを搭載することによりドライバーとパッセンジャーの着座位置を通常のBEVよりも低く設定。全高をエンジン車と同じ1353mmと低く設定したことも特徴のひとつです。

 基本的に同じプラットフォームを用いるグランカブリオも基本的なレイアウトはグランツーリズモと同じで、1365mmの全高はフォルゴレとエンジン車で共通とされています。

 いっぽう、グレカーレ・フォルゴレのプラットフォームはまったくの別モノで、一般的なBEVと同じようにバッテリーをフロア下の低いところに広く敷き詰めるレイアウトとされています。

 このためバッテリー容量は105kWhと大きく、航続距離は426〜501kmと十分なスペックを誇っています。

 そして駆動系は前後アクスルにモーターを1基ずつ設けた4WDで、557ps・820Nmを発揮。0-100km/h:4.1秒、0-200km/h:16.2秒と、いずれもガソリンエンジンを搭載したグレカーレ・モデナを上回るパフォーマンスを発揮します。

 なお、エンジン車のグレカーレはアルファロメオのステルヴィオやジュリアと共通のジョルジョ・プラットフォームを用いていますが、グレカーレ・フォルゴレの場合はどうなのでしょうか?

「トリデンテ」は最大8名乗船可能な電動ラグジュアリーボート

 ワークショップでプレゼンテーションを行なったエンジニアによると、基本的にはジョルジョ・プラットフォームで変わりないそうです。

 ジョルジョ・プラットフォーム自体はBEVを想定して開発されたわけではありませんが、さまざまなパワートレインに対応できる柔軟なデザインとしていたため、もともとのフロアを高めに移すとともに、その下側にバッテリーが搭載できるスペースを確保することでBEVにコンバートできたそうです。

マセラティが開催したイベント「フォルゴレ・デイ」の様子

 さらには重量増に対応して足回りの強化を図ったほか、バッテリーの周辺に衝突時の補強を組み込んだことが、エンジン車との違いとの説明を受けました。

 マセラティのフォルゴレはグランツーリズモ、グレカーレ、グランカブリオの3台に留まることなく、2025年までには「MC20」にくわえ、フルモデルチェンジを受ける「クアトロポルテ」や「レヴァンテ」にもBEV版が設定される予定です。

 イタリアのラグジュアリーカーブランドとして唯一BEVを発売するなど、電動化に積極的に取り組んでいるマセラティですが、彼らは陸上だけに留まらず、電動化技術で水上にも進出することを明らかにしました。

 その名もトリデンテは、エンジンをまったく用いない、純電動ボート。

 ちなみに、トリデンテとはマセラティのトレードマークである“三叉の矛=トライデント”を意味していますが、この三叉の矛を手にしていたのは、海の神であるポセイドン。その意味からいっても、マセラティがボートの世界に進出するのは当然といえるかもしれません。

マセラティの電動ボート「トリデンテ」

 全長10.5mのトリデンテは湖や海辺での「日帰りクルーズ」用に開発されたもので、最大8名が乗船可能。252kWhのバッテリーを搭載して約70kmの航行距離を備えています。
 
 ボートで70kmと聞くと、とても短いように思えますが、前述した「日帰りクルーズ」の使い道でいえば、これで十分以上の性能とのこと。それよりも、優雅で気品あるデザイン、豪華な装備やインテリアのほうが、ラグジュアリーボートとしては重要なのでしょう。

 なお、トリデンテは電動ボートのスペシャリストであるイタリアのヴィータ・パワー社との共同開発により生まれました。

 100年以上にわたってエンジンを積むラグジュアリー・スポーツカーを作り続けてきたマセラティ。彼らは2028年までに完全電動自動車メーカーに生まれ変わるそうです。そう聞くと、ちょっと残念な気もしますが、フォルゴレ・パワーを得た新生マセラティの動向に注目したいところです。