気に入ったピンクのシャツ。母から「今のうちだもんね。中年になったら着られないもの」と言われて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、SNSで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、〝色〟にまつわるエピソードです。

「若作りになったらつらいし」

30歳、気に入ったピンク色のシャツを買った女性。

母から「ピンクなんて今のうちだもんね」「中年になったら着られないもの」と言われました。

子どもを産み、35歳になった女性は「若作りになったらつらいし」と泣く泣く服を処分。

40、50、60代と、目立たず安く洗える服を選んできました。

70歳になった女性は、街角で「あの時のシャツに似てる」というピンクのシャツを見つけます。

「無理ね もう白髪のおばあさんだもの」と言い聞かせますが、夜の街を回っていた遠藤平蔵に声をかけられます。「何か悩んでおられるのか?」

女性が考えていたことを話すと、遠藤は「着たい服は似合うものです ぜひ着なされ」とすすめます。

女性は「薄いピンクって老若男女、誰が着てもきれいに見えると思うの」とほほえみます。

遠藤も「うん うん!私も一度、ピンクや空色に着替えてみたい」って返すのでした。

「色は自由でいいじゃないか」

作者の深谷さんは「色は自由でいいじゃないか」という思いでこのエピソードを描いたといいます。

「このごろはランドセルのが色が自由になり、いいことだなぁと思っています。昔は女子は赤、男子は黒となぜか決まっていましたよね。逆の色で買ってしまったら学校には持っていけないとか、ヘタをすれば学校に行けないというくらいの強制力があった気がします」

男性の色は寒色・女性の色は暖色というしきたりも根強かったと指摘する深谷さんは、「油断をすると、要らぬ決まりが増えたりします。きれいな色は誰にでも似合いますし、空間を明るくしますしね」といいます。

「実用的に、心の自由をなくさないように、自分の頭で考えて、みんなが生きやすい世の中を目指したいです」と話しています。

マンガ「夜廻り猫」

猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。

泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。

そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。

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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本10巻(講談社)が2023年11月22日に発売。講談社「コミックDAYS 編集部ブログ」で月・金曜夜に連載中。アニメ化し、NHK総合で再放送中。スピンオフ「居酒屋ワカル」は講談社「コクリコ」で連載した単行本が11月22日に発売。