「疾患や障がいがある子どもの〝育児書〟のような存在にしたい」。昨年、あるスタートアップ企業が情報サイト「ファミケア」を立ち上げました。サイトに並ぶのは、育児を楽しむための実用的な情報です。立ち上げのきっかけは、代表の育児経験でした。(withnews編集部・河原夏季)

当事者家族へ実用的な情報を届ける

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2023年9月に始まった「ファミケア」は、病気や障がいのある子どもたち向けの情報サイトです。当事者家族へ向けた実用的な情報が並びます。

コンセプトは「疾患児・障がい児家族の毎日を楽しく」。SNSの公式アカウントでは、お役立ち情報だけでなく子どもたちの「できたこと」や家族の喜びを発信しています。


運営を担うのは、スタートアップ企業「NEWSTA」(東京都渋谷区)です。約20人のスタッフのうち、9割が病気や障がいのある子どもを育てているといいます。

2人の子どもを育てる代表の鈴木碩子(せきこ)さん(32)もその一人。4歳の長男は、生後10カ月のときに「福山型先天性筋ジストロフィー」と診断されました。

多くの赤ちゃんは生後3〜4カ月ごろに首がすわるとされますが、長男は半年経っても首がすわらず、遺伝子検査を経て病気が分かりました。

筋力のピークは5〜6歳で、時間の経過とともに筋力が衰え、平均寿命は10代とされる指定難病です。

家族会の知見を得て感じた課題

病気が分かりショックを受けた鈴木さんでしたが、医師の「医学は進歩していて、この先10年の医療環境は違う」という言葉に励まされ、気持ちの整理をしていったといいます。

当時、鈴木さんは別の会社を経営していて、夫が育児の中心を担っていました。2人目を出産後は主に鈴木さんが長男のケアを担当し、夫が下の子を世話しています。

長男はたんの吸引といった医療的ケアが必要で、知的障がいもあり話すことはできません。

それまで障がい児を育てる知人はいませんでしたが、Instagramで同じ境遇の親に声をかけられて家族会とつながったといいます。


当事者家族のネットワークに入ってみると、そこに蓄積された知見の多さに驚きました。

「支援センターや病院で教えてくれないお出かけ先や便利グッズといった情報は、家族のネットワークから得られることを知りました」

一方で、「家族会がない場合など疾患によって情報を得られる人と得られない人が出てきたり、情報を取りにいくことが得意な人と苦手な人で差が生まれたりしてしまう」と感じたそうです。

「誰もが得られる情報発信」

「自分の経験や感じた課題を解決すべき」と考えた鈴木さんは、2022年「NEWSTA」を設立。「社会の仕組みとして誰もが情報を得られるプラットフォーム」を目指して動き出しました。

「楽しく育児をするために困りごとを解決する、疾患や障がいがある子どもの〝育児書〟のような存在にして、ここにくれば情報があるという状態にできればと思っています」


2024年3月には、疾患や障がいのある子どもの家族が個別の相談をできるアプリもリリースしました。サイトの情報で解決できない場合は、アプリから当事者家族につながり、情報交換できる仕組みです。

アプリのローンチには、全国約30人の家族がモニターとなり意見を出してくれました。


鈴木さんはよりよい社会にするために企業のサービスと当事者家族のマッチングにも力を入れていきたいといい、企業向けのマーケティング支援やコンサルティング事業も展開しています。

「企業が便利な製品やアイテムを開発していたとしても、マーケティングチャネルがなければ家族の困りごとの解決にはつながりません。今あるいい商品やサービスを、当事者にきちんと届けられるようにしていきたいと思います」