「第69回小学館漫画賞」の贈呈式が1日、都内のホテルで行われた。「逃げ上手の若君」で受賞した松井優征氏は「週刊少年ジャンプ」(集英社)で南北朝時代をモチーフとした作品を連載する苦労を口にし、受賞を喜んだ。

 同作は2021年1月から連載中。1333年、鎌倉幕府の滅亡を起点に、少年・北条時行が特技の「逃げる」ことで生き続け、仲間とともに乱世に嵐を巻き起こす物語。今年中のテレビアニメ放送も決定している。

 審査員を務めた漫画家の高瀬志帆氏は壇上で「読者へのサービス精神が異常!読んでくれ、というものすごい熱量」と評した。史実に取り組みながら、敵味方問わず魅力的なキャラクターが続出する点。日本画家、書家、デザイナー、3Dモデリングの協力を受けた、最新のデジタル作画。非常に高い〝漫画力〟を称賛した。

 続いて松井氏が喜びを語った。当初は他のヒット作を差し置いて受賞した点を不思議に思ったというが「純粋に嬉しい。出版社や発行部数に関係なく、僕が選ばれたということは、純粋にいい漫画である、面白い漫画であるということを評価されたことに他ならない」と大きな喜びを語った。

 「少年誌で歴史漫画を描くことは大変です。まず若い読者には、歴史というだけで拒否反応を示し、読まず嫌いの方もいらっしゃいます。そういった方にも届くよう、今まで培ってきた工夫、技術を駆使しています。高品質なものを作っている自負はあるが、果たして読者はついてきているのだろうか、と闇の中で描いてきました」。

 既に代表作「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」を持ちながらも、創作は孤独だった。その中での受賞。「『やってきたことは間違ってなかったんだよ』と言って頂いている気持ちになりました。これから漫画を描く活力になる。頑張って描いていける」と、改めて感謝を口にしていた。

 今年度は他に山田鐘人原作・アベツカサ作画「葬送のフリーレン」、絹田村子「数字であそぼ。」、稲垣理一郎原作・池上遼一作画「トリリオンゲーム」が受賞。今年度から漫画文化の多様さを鑑み、昨年までの「児童向け部門」「少年向け部門」「少女向け部門」「一般向け部門」の各部門が廃止された。受賞者には正賞としてブロンズ像「みのり」(中野滋作)、副賞として100万円が授与された。審査員はおのえりこ、恩田陸、川村元気、島本和彦、高瀬志帆、ブルボン小林、松本大洋が務めた。

(よろず〜ニュース・山本 鋼平)