◇連載「Ohtani Chronicle」第5回・ドジャース編

 エンゼルスから10年総額7億ドル(約1015億円=契約当時のレート)という破格の契約でドジャースに移籍した大谷翔平選手(29)の新シーズンが幕を開けた。2度のMVP受賞など、米大リーグでも新たな歴史を刻み続ける二刀流の道のりを改めて振り返る「Ohtani Chronicle(オオタニ・クロニクル)」。5回にわたって“年代記”の最終回は、ロサンゼルス・タイムズで大谷のエンゼルス1年目からドジャース移籍まで追ってきたディラン・ヘルナンデス記者(43)が特別寄稿した。日本人の母を持ち、日本語も堪能、大谷の母校である岩手・花巻東高を訪れ、佐々木洋監督を取材した経験を持つ敏腕記者がドジャース入りした大谷の印象を語った。

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 春季キャンプを見ていて目を引いたのは、大谷選手の表情がすごく明るいこと。エンゼルス時代、特にここ何年かは自分でやらないといけないという雰囲気があって、少し厳しい顔つきだったように思う。

 ドジャースとエンゼルスの大きな違いは大谷だけでなく、ベッツ、フリーマン、カーショーら他にもスーパースターがいて、プレーオフのある10月にプレーするのは当たり前だということ。先発ローテーションや遊撃手に懸念材料があるとはいえ、みんな健康だったら120勝するかもしれない。プレーオフになんとか行ければというエンゼルスとは違う。

 だから、大谷も自分がやらないといけないという責任もあると思うけど、より野球を楽しめる環境にあるのかなと思う。大谷がメジャーでのプレーを積み重ねて、圧倒的な自信があることも表情に出ている。

 チームメートとの関係も良好だ。大谷選手は人を“いじる”のが好きで、フリーマンやベッツもいじり返すのが好き。韓国での3人が出席した会見を見ても、大谷の妻の真美子さんの質問が出た時に、フリーマンがうれしそうに「この話は聞かなきゃ」といじっていたし、ベッツも「カモン」と突っ込んでいた。

 最初はベッツとフリーマンが大谷をどう見ているのか、分からない部分もあった。大谷が入って明らかに主役は大谷で、彼らは脇役になったから。プライドが傷つくのではないかと思ったけど、今のところそんな心配はなさそうだ。遊撃へのコンバートを受け入れたベッツの練習の姿勢を見ても、大谷といういい刺激が入って、自分もやらないといけないというふうになったように見える。

 ドジャースはSNSなどを通じての映像や写真を世界に発信しているチーム。選手もカメラを向けられていることを理解している。大谷の妻の真美子さんの写真も、積極的に配信した。ファンに見られていることを意識する球団の中で、本物のスター、大谷がどういう活躍、振る舞いをするのか、今後も楽しみだ。