大型連休を目前に控えた4月26日(金)の昼頃、ある女性がXに投稿した、電車内での迷惑行為を告発する動画が多くの人々の関心を集めた。動画は瞬く間に拡散され、ついには男性の氏名まで特定される騒ぎに――。

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「これは酷い」、「気持ち悪い」

 電車内で座席に座る投稿者の女性。その目の前に立つ男性が、女性に向かって中指を“クイクイ”と動かす。投稿者が少しずつカメラの画角を上に向け、男性の顔を映し出されると、それに気づいたのか男性はその場を離れる。これが投稿者の女性が撮影した約30秒の動画の一部始終だ。

動画には以下のコメントが添えられていた。

「みなさん教えてください。触られてない以上は我慢するしかないですか?車内で隣こいって合図をされて無視してたら接近。そして延々と鞄をぶつけられたり映像のようなことをされました。ずっと何も出来なかったけどやっとの思いでカメラを向けました。そしたら逃げた。注意喚起も込めて私は載せます。」

 Xの反応は概ね、「これは酷い」、「気持ち悪い」といったもの。「1.6万リツイート、4.5万いいね」と、投稿された動画自体も大きな関心を集めることになったが、この話にはまだ続きがある。

 なんと、動画が投稿されてから1時間と経たないうちに、動画内で中指をクイクイしていた男性の名前が特定されたのだ。

「酒に酔い記憶はないが、どう見ても自分」

 実は、男性(以下K氏)は「M杯」という、女流雀士と卓を囲むことのできる麻雀イベントを定期的に主催しており、都内の“麻雀界隈”では名の知れた人物だというのだ。

 当日、いったい何が起きていたのか。“指クイ”の動作にはどんな意図があったのか。K氏本人が取材に応じた。

「26日に動画が投稿されてからすぐ、知り合いから“これはお前じゃないか?”と連絡があり、実際に動画を見て“えっ、なにこれ”と絶句しました。映っているのは確かに私で間違いない。ただ、酒に酔っていたんだと思うのですが、記憶に全くないんです」(K氏)

 都内の飲食店で働くK氏の出勤時間はいつも夕方頃。動画が投稿された当日のお昼頃は自宅にいたという。

「動画が撮られたのは、前日の夜ではないような気がするのですが…それもハッキリとは分からない。ただ、何度も動画を見返しましたが、やっぱり映っているのは自分の顔なんです。だから、言い逃れはできないと思っています。女性に不快な思いをさせてしまい、ただただ申し訳ないです」(K氏)

 K氏がXのダイレクトメッセージで相手の女性に送信した「謝罪文」を見せてもらうと――。

「こちらのツイート(註:女性の投稿)の本人です。先ずは不快に思わせてしまった事を心よりお詫び致します。もし、警察に被害届を出しているようでしたらすぐに出頭するつもりです。酒も入り酔っていた為、記憶には全くありませんがそれで済むとは一切思っておりません。重ねての言葉になりますが本当に申し訳ございませんでした」

 今のところ女性からの返事はないそうで、動画も残されたままになっている。ちなみに編集部も女性に取材を申し込んだが、現時点でコンタクトは取れていない。

「返事をするかどうかは相手側の自由ですし、今回の件でたくさんDMが来て、メッセージが埋もれてしまっているのかも知れません。動画が残っているのも、悪いのは自分ですし、こちらからとやかく言えることではないと思います」(K氏)

 K氏はそう話すが、その影響は自身が関わってきた麻雀イベントにも及ぶことに。実は、3日後の29日(月・祝)は、K氏が月1回ペースで主催してきた「M杯」が控えていたのだ。

麻雀イベントの関係者は「複雑な心境」

「“特定”の後、DMでキモいとか、お前は終わりだとか、そういう言葉がたくさん送られてきて、精神的に堪えました。でもそのことより、自分と関わることで麻雀イベントの参加者が“迷惑行為に加担した”という風に言われることは避けたかったので、ゲストの女流雀士の方たちや、参加者の皆さんに中止を申し入れました。相手の女性に対してもそうですが、関係者の皆さんを失望させてしまったこと、裏切ってしまったことがつらい。ケジメとして大会運営からは手を引こうと考えています」(K氏)

 結果的に「M杯」は中止されることなく、ゲストとして参加予定だったグラビアアイドルでプロ雀士の篠原冴美さんが引き継ぎ、別の会場で開催されたという。

 運営を引き継いだ篠原さんに話を聞くと、複雑な胸の内を明かしてくれた。

「私もその動画は見ました。麻雀の界隈は狭い世界なので、拡散されてすぐ女流雀士の仲間内でも“これ、きたにゃん(K氏の愛称)さんじゃない?”と話が広まって…。イベント直前だったので一時は中止という話になったのですが、せっかく参加者の皆さんもゲストの女の子たちも楽しみにしていた会なので、Kさんと連絡を取って運営を引き継ぐことにしました」

 ただ、雀士の仲間たちやファンからは、「このタイミングで運営を肩代わりすれば批判されるリスクもあるから心配だ」と、止められたそうだ。

「引き継ぎのやり取りの中で、Kさんもあれは自分だと認めていました。動画を撮った女性は嫌だったろうし、怖かったと思うし、トラウマになったんじゃないかと思います。これまで私が接してきたKさんは女性に対し紳士的な方でしたが、だからと言って、Kさんの行動は許されるわけではない。また、ああいった迷惑行為に遭った女性が声を上げられる世の中になってきたことは、私自身もいい風潮だと思っています。ただ、今回はその迷惑行為をした男性が知り合いだったので…複雑な気持ちです」(篠原さん)

「悪いのは自分」

 相手の女性のことを思うと、軽はずみなことは言えないものの、これまで接してきた“きたにゃん”像からは距離のある“悪行”だったというのだ。

「運営を引き継いでみて分かったことがあります。イベント参加費のほとんどは、ゲストのプロ雀士へのギャラの支払いや店舗のスペース代に消えていて、ほぼボランティアで運営してくれていたんですよね。どうしてあんなことをやっちゃったんだろう…」(篠原さん)

 ただ、たとえ麻雀仲間からの人望が厚かったとはいえ、電車内で迷惑行為を働いたという事実は変わらない。迷惑行為に及んだのはアルコールの影響があったのかも知れないが、そこはK氏本人も話していた通り、

「飲むのが悪いのではなく、悪いのは自分」(K氏)

 ということに尽きるのである。

デイリー新潮編集部