アイドルグループ「仮面女子」のメンバーとして活動している猪狩ともかさん。事故から約6年、自身のXで投稿した『車椅子ユーザーになって思うこと』には多くの反響が寄せられています。

車いすに乗りながらアイドルとして活動を続けるともかさんに、アイドル活動や車いすでの生活の様子などについて話を聞きました。

大きな看板の下敷きに…

2018年4月11日。ともかさんはいつも通る道を歩いていたところ、強風で倒れてきた大きな看板の下敷きとなり、脊髄を損傷したことで足に障がいを負うこととなりました。

ともかさんは医師に伝えられる前、携帯で脊髄損傷について調べているうちに車いすユーザーになるかもしれないと察しました。そして、ともかさん自ら「治らないの?」と家族に聞いたといいます。

車いすユーザーになると知る前から「戻ってきてほしい」と事務所の方から言われていたともかさん。そこで、活動を辞めるのではなく、車いすに乗ってどのように活動できるのかを考えるように。落ち込みはしたものの、周囲からの声がけもあって早い段階から前を向くことができました。

ともかさんは現在、おへその下くらいからの感覚がありません。動かせないだけでなく、温度や痛みもわからず、知らぬ間に怪我をしているなんてことも。そのほかにも、自分で排泄のコントロールができない“排泄障害”も抱えています。

そんななかともかさんは、先日Xで『車いすユーザーになって思うこと』を発信しました。

車いすを使うようになってからの生活や心境の変化について、ともかさんは次のように話しました。「車いす生活になってからは時間に余裕をもって行動するようになりました。車いす生活になる前に比べて着替えなどに時間がかかりますし、バリアフリールートで移動するとなると遠回りしなければいけないことが多々あります。人の手を借りる場面が多くなったので『ありがとうございます』という言葉を発することが多くなりました」

ともかさんの発信には「困ったときには積極的に声をかけてほしい」「言われて初めて何に困っているか気付く」などの声が寄せられました。声をかけたりサポートしたりしたいと思っても、どうしたらいいかわからず声がかけられないという人は多いようです。お互いにコミュニケーションが取れれば…といった声もみられました。

車いすユーザーのアイドル

現在、ともかさんは「仮面女子」の一員としてライブ活動をしています。また、個人としてパラスポーツ関連のイベントや講演会へも出演しています。

ともかさんは、車いすユーザーになると知った後でも「アイドルを続けるかどうか」ではなく「どのようにアイドル活動をするか」という考え方だったため「アイドルを続ける決心をするまで」という過程はなかったといいます。しかし、ともかさんがいないときの仮面女子のライブ映像を見て「本当に車いすに乗った私がこの中に入っていいのだろうか」「自分が仮面女子をカッコ悪くしてしまうのではないか」という葛藤を抱えていました。
ただ、その気持ちは実際にステージに立って成功体験を積み重ねることで自信がつき、薄れていったようです。

車いすアイドルとして活動を始めると、以前と同じスケジュールで出演することは体力的に難しくなりました。仮面女子はライブ本数が多かったため、調整をしながらライブ出演するように。しかし、事故から6年経った現在は体力もついてきたことから、復帰当時に比べると出演回数は多くなったといいます。

車いすに乗りながらアイドルをすることの大変さについて、ともかさんは「ライブ会場はバリアフリーではないことがほとんどです。階段ではスタッフさんに車いすごと持ち上げてもらったり、おんぶしてもらったりしています。ステージは平らに見えて案外歪みなどがあって、車いすはちょっとした傾斜にも敏感なのでしっかりと押さえておかないと動いてしまったりします」と話しました。

実際のライブでは、グループのメンバーに支えてもらうことも多いのだそうです。

グループのメンバーたちは、ライブの構成を考える際「ここは移動間に合わないよね」「この振り付け難しいよね」など、色々と気にかけてくれるといいます。 ステージ以外でも、移動中に坂があると自然と車いすを押してくれたり、荷物で動線が塞がっているとどかしてくれたりと助けてくれることがたくさんあるのだとか。

ともかさんがアイドルを続けることの原動力は、ライブに来てくれる人たちからの「元気でた」「楽しかった」といった言葉だといいます。ほかにもSNSで「車いすに乗っている娘がいがともちゃんに勇気をもらっています」との声が嬉しかったそうです。

相互理解につながる発信を

SNSに寄せられた多くの応援コメントに対し「車いす生活で困ることなどに対して理解の声をいただくことが多く、ありがたく思っています。自分にとっては当たり前になっていることが『そういうことに困るんだ!』『そんな視点があるんだ!』と驚かれることがよくあり、当事者以外の方にもわかりやすく伝えるよう心掛けています」と話しました。

ともかさんは、今後も車いす生活や障がいについて触れる機会がなかった方たちに向けて、相互理解につながる発信をしていきたいといいます。

現在は障がいやパラスポーツに関することでのお仕事がほとんどだというともかさん。車いすや障がいなどのトピックがなくても、いちタレントとして起用してもらうことを目標にしているそうです。ともかさんは「特別な理由なく、障がいをもっている人が当たり前にみんなの輪の中にいる構図が増えていくといいなと思っています」と話しました。

これからも意欲的に活動していきたいと話すともかさん。今後の活動にも期待していきたいですね。

ほ・とせなNEWS編集部