「クラシックの女王」が、自転車の女王たちに門戸を開いて4年目。史上数々の伝説を演出してきた、無骨で非情なる石畳たちが、この春もパリ〜ルーベ ファムにドラマチックな物語を約束する。

第4回目となる今大会の全長148.5kmのルートは、1年前とほぼ同じ。つまり序盤20kmから逃げ出した一団によるスプリントを無印アリソン・ジャクソンが制したという、とてつもないサプライズを産み出した道のりだ。「上手く行ったものを、あえて変える必要はない」と、開催委員会は新たな衝撃を期待する。

エリザベス・ダイグナンが82kmを一人で突っ走った創設大会(116.4km)や、エリーザ・ロンゴボルギーニのやはり33kmの独走で幕を閉じた2年目(124.7km)に比べて、まず距離があきらかに長い。しかも石畳突入「前」のポジション争いタイムが伸びた。すっかりおなじみとなったドゥナンから走り出すと、まずは市街地を小さく2周回。さらには南へと大きく一回りし、51.5km地点で改めてドゥナンを通過してから、ようやく本物の「北の地獄」へと取り掛かるというわけだ。

アスファルトの上での緊張感が増した一方で、石畳セクター自体は4年前から変わらない。全17か所・全長29.2km。翌日の男子もやはり同じ17セクター(+12セクター)を通過するとは言え、残念ながらアランベールだけはいまだお預け。それでも名高いモンス・アン・ペヴェルと最終勝負地カルフール・ド・ラルブルが、最難関「5つ星」セクターとして女子選手の前に立ちはだかる。

第11セクター、すなわち7番目に通過する石畳路モンス・アン・ペヴェルは、フィニッシュまで約50kmに位置する戦略的要地。女子ルーベ最長、全長3kmのセクター途中には、厄介な2度の直角コーナーが待ち受ける。特に2つ目のコーナーは泥が多いことで知られている。

ライバルとの仁義なき攻撃合戦をかいくぐり、なにより幾多の不運を逃れた実力者たちを、第4セクターのカルフール・ド・ラルブルが最後のふるいにかける。全長2.1kmの長い石畳路は、ほぼ真ん中で左90度に曲がっている。前半は路面状況があまりにひどすぎて、後半は沿道につめかけたファンの数が多すぎて、いずれにせよとてつもなく厄介な代物である。

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パリ〜ルーベ ファム|Cycle*2024

カルフール・ド・ラルブルを抜ければ、ルーベの自転車競技場まで残すは15km。もちろん最後の最後まで勝負が決まらない場合は、セメントのバンクの上で、熾烈なファイナルスプリントが繰り広げられるのだ。

ちなみに2024年4月6日の土曜日、予想最高気温はなんと25度!また前日まで雨模様ではあるけれど、この日だけは晴れ。しかも南から突風混じりの強い風が吹付けるという。すると季節外れの夏日に、ドライとウェットの入り混じった路面を追い風に吹かれて爆走することになり……選手自身の体調管理だけでなく、補給やマテリアルの選択も極めて難しくなりそうだ。

晴れだろうが、雨だろうが関係なく、ご存知の通り、パリ〜ルーベは難しい。必ずしも最強の選手が、栄光の石畳トロフィーを、天高く突き上げられるわけでもない。

それでもロッテ・コペッキーは、アルカンシェル姿での勝利を夢見る。前週のロンド・ファン・フラーンデレンWEこそ3連覇を逃したものの、ストラーデ・ビアンケ ドンネで2勝目と、悪路走行はお手の物。2大会前は2位に甘んじたルーベで、4度目の正直を果たしたい。周りを固めるのはSDワークス・プロタイムの頼もしいベテラン勢で、また今季ヘント〜ウェヴェルヘムを筆頭にスプリント6勝と絶好調ロレーナ・ウィーベスも控えている。

ロード、トラック、シクロクロスで世界の頂点へ上り詰め、3大ツールのリーダージャージを着用し、去る3月27日にはなんとロード250勝目を挙げたマリアンヌ・フォスには、いまだこの伝説的レースのタイトルが足りない。第1回大会の2位で、女性版「カニバル」が満足できるはずはない。36歳のこの春、オムループ・ヘットニュースブラットとドワース・ドール・フラーンデレンという2つの石畳レースをさらい取り、シーズンで最も重要な石畳大戦に挑む準備は出来ている。

2年前の覇者にして、今季フランドル女王のロンゴボルギーニは、シーズン前から予定していた通り、ルーベをスキップしてアルデンヌに集中する。またチームメイトにして初代ルーベ女王ダイグナンは、ロンドでの落車骨折でルーベ欠場に追い込まれた。それでもリドル・トレックは元世界チャンピオンのエリザ・バルサモと2022年ルーベ3位ルシンダ・ブラントとで、優勝戦線に間違いなく絡んでくる。

1年前に世界中の視線を釘付けにしたジャクソンは、今年もルーベ競技場で勝利のダンスを披露できるだろうか。過去3大会は表彰台に1人も送り込めなかった地元フランスは、仏チャンピオンのヴィクトワール・ベルトーに期待を寄せる。

文:宮本あさか