「なにも疑ってない。この仕事を楽しんでいるし、来シーズンも続けられるだろう」

マンチェスター・ユナイテッドのエリク・テンハフ監督は意気軒高だ。

「毎日ビクビクしている。楽しむよりも不安が先に立ち、来シーズンどころか、明日にでも解雇されるかもしれない」とは、口が裂けても言えない。弱気な指揮官はだれにも支持されず、コントロール機能を失うからだ。

しかし、31試合を消化した時点で勝点49。4位トッテナムとは11ポイント差だ。残り試合をふまえるとチャンピオンズリーグ出場権獲得は至難の業で、英国のデータサイト『opta』の予想も4位はわずか0・3%だ。テンハフは、みずからの足もとを疑った方がいい。

さて、4月7日のリヴァプール戦では、右からディエゴ・ダロト、ウィリー・カンブワラ、ハリー・マグワイア、アーロン・ワン=ビサカという、今シーズンの公式戦43試合で実に31通り目となる4バックで臨んだ。

ルーク・ショー、リサンドロ・マルティネス、ラファエル・ヴァラン、ジョニー・エヴァンズ、ヴィクトル・リンデレフが次々と負傷に倒れたため、やむをえない人選だ。ハリー・エイマス、ハビーブ・オグニェといった17歳の少年をベンチに入れるなど、ユナイテッドの最終ラインはシーズンを通して緊急事態である。

健康体で闘いつづけているDFはダロトただひとりだ。シーズン前にベストと考えられていたワン=ビサカ、ヴァラン、L・マルティネス、ショーの並びは、開幕節のウォルヴァ―ハンプトン戦と2節のトッテナム戦だけだ。センターバックも固定できず11パターンを試し、スターティングイレブンも39パターンに及んでいる。

それにしても、集中力を高めるべき時間帯の失点が多すぎはしないか。

2004年のプレミアリーグ10試合で喫した19失点のうち、後半の追加タイムに6回もゴールを奪われている。80〜90分に3失点、前後半の立ち上がりにも2失点。リーグ3位のクリーンシート8試合を記録しているGKアンドレ・オナナがいなければ、失点はさらに増えていたに違いない。

4月7日現在、被シュート数253本はワースト1位、首位を行くアーセナルは91本。およそ3倍じゃないか、恥ずかしい! それでもテンハフは「来シーズンも監督を続けられるだろう」と意味不明な自信に満ちあふれ、「われわれは日々成長している」と胸まで張ってみせた。

けが人続出という言い訳はあるにせよ、パフォーマンスは昨シーズンよりも低下した。行き当たりばったりの感は否めず、OBのガリー・ネヴィルが「基本的なプランすら存在しない」と切り捨てている。

「優勝争いとかチャンピオンズリーグ出場権とかの次元ではない。もはやミドルランクだ。テンハフに任せておいていいのか」

元キャプテンのロイ・キーンはより辛辣だった。

ビッグクラブでリーグ優勝を経験したロベルト・マンチーニやジュレン・ロペテギを招聘しても、シュート “撃たれ放題” が100%改善する保証はない。ただ、一向に被シュート数が減らないのは、テンハフが無策なのか、あるいは選手たちが監督の指示に耳を貸さないのか。

FAカップ決勝まで勝ち進むとすれば、今シーズンの公式戦は残り9試合だ。せめて、フィナーレだけは美しく……。

文:粕谷秀樹