2024年の開幕が目前に迫るSUPER GTは、今年も岡山国際サーキットで初戦を迎える。すでに桜前線がスタートしており、レースウィークまで花が待ってくれるか微妙だが、サーキットに集いし精鋭たちが見どころたっぷりのパフォーマンスを披露してくれるに違いない。

 

開幕を前に、今シーズンの特徴を挙げるなら、やはり「変化」に尽きる。全15台が参戦するGT500クラスは、うち10台がドライバーのコンビネーションを改変。昨シーズンが5台だったことを考えると、その差は歴然だ。

新たな戦闘マシン、シビック・タイプR-GTを投入するホンダ陣営は、5台のうち4台が新コンビへ。不動の体制は、STANLEY CIVIC TYPE R-GTの山本尚貴/牧野任祐組のみとなる。2台体制2年目のARTAは、8号車に松下信治が移籍して野尻智紀とタッグを組むが、実はこのふたり、知り合って25年超! キッズカート時代から気心の知れた間柄だが、シーズンオフのテストではしっかりお互いの意見を交換しつつ準備を進めている。2021、22年に全日本スーパーフォーミュラ選手権で連覇した野尻としては、全幅の信頼を寄せるパートナーと一緒にSUPER GTの栄冠も手にしたいと願っているはずだ。また、16号車にはGT500クラスへとステップアップした若手の佐藤蓮が新加入。大津弘樹が主軸になってチームを引っ張る。また、松下が抜けたAstemo CIVIC TYPE R-GTには、太田格之進が移籍。昨シーズン、GT500クラスとスーパーフォーミュラにステップアップすると、GTは第4戦富士で2位、そしてフォーミュラでは最終戦で初優勝を達成した注目株だけに、ベテラン塚越広大とのコンビ力に期待が膨らむのは言うまでもない。そして、ホンダ勢唯一のダンロップタイヤを装着するModulo CIVIC TYPE R-GTには、GT300クラスから大草りきが加入。ニッサン系チームからの移籍とあって話題を集めたが、当の本人ですらサプライズな出来事だったとか。ホンダ最年長の伊沢拓也とともにタイヤ開発の重責を担うことになる。

4台のニッサン陣営も、3台がコンビを変更する。MARELLI IMPUL Zは平峰一貴/ベルトラン・バゲット組と不動だが、“カルソニック・ブルー”と呼ばれてきた鮮やかなマシンカラーが、マレリのコーポレートカラーであるダークブルーへと新調。往年のレースファンからすればちょっぴり心寂しい感じだが、タイトル奪還を目指すチームとしては気分一新といったところか。一方、NISMOの2台は、昨シーズンをもってGT500クラスでの参戦活動を休止したミシュランタイヤからブリヂストンへスイッチ。インパルと合わせて3台分のデータが、戦いを重ねていくなかで有効に機能することだろう。昨シーズンの開幕戦を制した23号車には、千代勝正が3号車から移籍し、ベテランのロニー・クインタレッリとコンビを結成。高星明誠がエースとなった3号車は、GT300クラスからステップアップし、スーパーフォーミュラにも復帰した三宅淳詞を迎え入れる。また、ニッサン勢として唯一ヨコハマタイヤユーザーのリアライズコーポレーション ADVAN Zには、松田次生が23号車から電撃移籍。GT300クラスから念願のステップアップとなる名取鉄平と組み、タイヤ開発はじめチームの戦闘力アップを目指す。

そして6台体制のトヨタ陣営は、昨シーズン第3戦鈴鹿で7年ぶりの優勝を遂げたWedsSport ADVAN GR Supraの国本雄資/阪口晴南組はじめ、Deloitte TOM’S GR Supraの笹原右京/ジュリアーノ・アレジ組、さらにDENSO KOBELCO SARD GR Supraの関口雄飛/中山雄一組の3台は不変。残る3台が新体制を敷く。ENEOS X PRIME GR Supraには福住仁嶺がホンダ陣営から新加入。チームに2019年以来のシリーズタイトルをもたらすべく、ベテランの大嶋和也と戦う。一方、昨シーズンのチャンピオンカーであるau TOM’S GR Supraは、坪井翔が残留。山下健太が全日本F3以来となる古巣に戻り、チャンピオン経験者ふたりがタッグを組む。まさに、最強の新体制だ。そして、さらに話題を集めているのがKeePer CERUMO GR Supra。長きにわたってチームを牽引した立川祐路が引退して監督に就任。石浦宏明はホンダ陣営から移籍した大湯都史樹を新たなパートナーにする。車名もカラーリングも一新され、多くの変革を遂げたチームからは目が離せない。ちなみに、コロナ禍で開催が見送られた2020年を除く過去10シーズンの岡山戦を振り返ると、トヨタ陣営が5勝を誇る。得意なコースで、スタートダッシュを決めたいはずだ。

チーム体制だけでも、情報たっぷりの開幕戦。だが、今シーズンの変化としてはごく一部に過ぎない。次はタイヤについて触れたい。持ち込みのドライタイヤが昨シーズンに続いて1セット削減され、最大4セットに。使えるタイヤを残すため、チームは走行を減らそうと考える。そうなれば、せっかくサーキットに足を運んでくれたファンがコースを疾走するマシンを存分に見ることができない……そんな“負のスパイラル”を回避するかのように、予選方式が変更されている。予選から決勝スタートまで使えるタイヤを1セットに義務化し、予選もノックアウトに代わってQ1とQ2のタイムを合算する方式が導入された。これにより、GT500クラスドライバー全30名がQ1もしくはQ2に出走する。各タイヤメーカーがシーズンを通して装着可能な耐久性の高いタイヤの準備に腐心する一方で、ドライバーにはタイヤパフォーマンスをしっかり引き出す走りが求められる。ファンは全選手のアタックが見られて楽しみは増えるが、Q1担当ドライバーはQ2を考慮せねばならず、タイヤに必要以上の負荷はかけられない。かといって渾身のアタックはしたい。理想と現実の狭間で妥協点を探すことになる。また、Q2担当ドライバーとてユーズドタイヤを賢く使いこなさねばならず、内心穏やかではないだろう。勝手がわからない開幕戦に至っては、そのプレッシャーも相当なもの。ドライバーの心理状態に影響を与えそうな緊迫の新予選は、大きな見どころとなるだろう。

 

このほか、安全性向上を目的とするレギュレーションの見直しも行なわれるなど、まさに未知数だらけの今シーズン。開幕の岡山は、読めない展開のなかで筋書き通りの戦略を練ることができるか、タフな一戦になりそうだ。

カーボンニュートラル推進を目指し、「SUPER GT Green Project 2030」という環境対応ロードマップを掲げるSUPER GT。2030年までに二酸化炭素の排出量を半減すべく、昨シーズンからはGT500クラスにおいて化石燃料を一切使わない合成燃料のカーボンニュートラルフューエル「GTA R100」の導入している。GT300クラスでも、昨シーズン終了後のテストを経て、ついに合成燃料50パーセントの「GTA R50」の使用が始まる。

開幕戦の岡山には27台がエントリー。ドライバーのチーム移籍や新たなルーキーの登録が見られるなか、新たな予選方式は、GT500クラスよりも一層複雑だ。トラフィック対策としてQ1をA、Bの2組に分けるのは、昨シーズンから同じ。岡山大会では、昨シーズン終了時のチームランキングに基づいて区分され、A組に14台、B組に13台が出走する。Q2では、Q1各組上位8台の計16台を「グループ1」、それ以外の計11台を「グループ2」に分かれてアタックを行なうが、そこでグループ1の下位4台と、グループ2の上位4台で合算タイムを比較する「順位入れ替え」が実施される。これにより、Q1で上位16台に残ってグループ1で出走したものの、合算タイム次第でポジションをさらに下げることもあれば、グループ2で上位に食い込めば、ポジションアップのチャンスが巡ってくるという、“明暗分かれる”可能性が控える。この新たな予選方式は、急な天候の変化やアクシデントなど当日のコンディションによって採用が見送られることもあるが、まずは岡山の予選アタックの行方をしかと見届けたい。

チームの勢力図だが、まずノーウエイトの開幕戦ではマシン、チームの“素性”をチェックしたい。昨シーズンに初タイトルを手にした埼玉トヨペットGB GR Supra GTは、Green Brave GR Supra GTへと車名を変更。ディフェンディングチャンピオンの吉田広樹と野中誠太が新コンビを結成し、連覇を狙う。一方、最終戦もてぎで自分たちのレースができず、ランキング2位に涙したmuta Racing GR86 GTは、堤優威/平良響組を継続させ、監督兼第3ドライバーの加藤寛規とともに雪辱に燃えている。そして、リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rにも注目。佐々木大樹が、かつてGT500クラスでタッグを組んでいたジョアオ・パオロ・デ・オリベイラと共に新境地に臨む。実力派ふたりの参戦に、ライバルたちも戦々恐々ではないだろうか。また、フェラーリ296 GT3やアストンマーチン・バンテージGT3といった“黒船”も、レースファンの関心の的となるだろう。

先月、2度にわたって行なわれた公式テストでは、様々な“変化”にいち早く対応しようと、各チーム、ドライバーが総力上げて準備したメニューに取り組む姿が見られた。ウエットコンディションのセッションもあり、さまざまな状況を想定したシミュレーションにも着手したと思われる。

一方、岡山でのレースウィークは、春本番の陽気に恵まれたとしても日中は気温の変動が大きい頃でもある。持ち込む4セットのタイヤスペックの組み合わせも気になる。不確定要素であふれる岡山は、戦う側にとってハードワークばかりだが、ファンとしては予測不可能な面白さでいっぱいの一戦になること、間違いなしだ。

■ドライバーからひと言!
松田次生(2023年岡山大会ポールポジション獲得者)

去年は雨の中、13年ぶりにポールポジションを獲れて嬉しかったですね。決勝でも目まぐるしくコンディションが変わって大変でしたが、自身の最多勝記録も24勝に伸ばすことができたし、岡山はゲンのいいサーキットです。

岡山は観客席とコースの距離が結構近いサーキットで迫力がありますよね。1コーナーから続くコーナー、さらにダブルヘアピン(レッドマン&ホッブスコーナー)といろんな場所で走るクルマを見て欲しいと思います。

今年はヨコハマタイヤで戦うことになったので、乗り方含めてアジャストするのが大変ですが、一生懸命調整中です。新天地でがんばって結果につなげられるような走りをしたいと思っているので、ぜひ応援してください!

文:島村元子