ユイに始まり、ユイに終わる。ワンデークラシックとしては女性版「イル・ロンバルディア」トロフェオ・アルフレド・ビンダに次ぐ歴史を誇るフレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌは、今年もいつもどおりにユイの町から走り出し、おなじみクラシック屈指のユイの壁のてっぺんで勝敗を競う。

ただし第27回大会では、3つの極めて重要な変化が、女子チャンピオンたちを待ち受ける。まずはいつもならミュール・ド・ユイの直前に立ちはだかってきたコート・ド・シュラヴ(全長1.3km、平均勾配8.1%、最大勾配13%)が、工事中のせいで今年は使用できない。つまりは集団を小さく削る役割を果たす難所が不在で、例えば男子レースは、いつもならユイ3回通過のところを4回に増やして対応する。

一方の女子レースは、レース自体の距離を大幅に伸ばした。そもそも今年はヘント〜ウェヴェルヘムが171km、ロンド・ファン・フラーンデレンが163km、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュが153km、パリ〜ルーベが148.5km……と女子クラシックの走行距離は軒並み過去最長記録を更新。フレーシュ・ワロンヌ女子もやはり、昨大会より約18kmも距離を加え、大会史上最長の146kmで争われる。

また昨季まで見どころと言えば、終盤のコート・デレフ(2.1km、5%、9.8%)→シュラヴ→ユイの連続登坂×2回だけに凝縮されていたが、今年はスタート直後から手強い難所が襲いかかる。たった7kmほど走っただけで第1の登りコート・ド・ジヴ(2.1km 5.5%)に突き当たり、その後も立て続けに37.6km地点コート・ド・クリエール(1.4km 7.1%)、53.4km地点コート・デヴルアイユ(2.6km 5.2%)へと挑まねばならない。3つの急坂が挟まれたおかげで、レース序盤から活発なアタック合戦が巻き起こるに違いない。

それでも、フレーシュ・ワロンヌとは、なにがなんでも「ユイの壁よじ登り競争」なのだ。泣く子も黙るミュール・ド・ユイは、登坂距離こそ1.3kmと短いながらも、平均勾配は9.6%と凄まじく高い。かつての王者を讃え「クリケリオン・シケイン」と呼ばれる最難関ゾーンに至っては、最大勾配26%にも達する!

そのユイの壁は、フィニッシュ直前まで、ぎりぎりの駆け引きが繰り広げられる場としても知られている。ところが1年前のデミ・フォレリングは、麓からフィニッシュまで先頭で駆け上がった。後のツール・ド・フランス総合覇者は絶対的な強さを発揮し、激坂で追いすがるライバルたちを、非情にも次々と振り払っていったのだった。

ただ昨季はストラーデ・ビアンケとドワース・ドール・フラーンデレン、さらにアムステルゴールドレースを制し、絶好調でフレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌに乗り込んだフォレリングだが、今年はいまだに両手を上げられていない。もちろん「単なる時間の問題」と本人は決してパニックには陥ってはいないし、「脚質的に最も適している」と自負するアルデンヌクラシックで、再び勝利カウンターを回し始めたいと願っている。

フォレリングの初戴冠を含め、過去26回大会のうち、実に13回がオランダ選手の手にわたってきた。2015年から2021年までアンナ・ファンデルブルッヘンが驚異の7連覇を果たしているが、それ以前は、間違いなくマリアンヌ・フォスの時代だった。2007年から2013年までの間に、キャリア通算251勝を誇る「女王」は、フレーシュ・ワロンヌを計5度制した(+表彰台が1度)。

36歳の春もオムループ・ヘットニュースブラット、ドワース・ドール・フラーンデレン、そして大会前週のアムステルゴールドレースを小集団スプリントで鮮やかに勝ち取り、いまだに陰りを知らぬフォスだが、どうやら大会3日前の時点ではフレーシュ・ワロンヌへの出場は未定とのこと。

パリ〜ルーベからトロフェオ・アルフレド・ビンダまであらゆる地形で勝利をもぎ取り、今季もワンデー3勝と安定した強さが光るエリーザ・ロンゴボルギーニは、フレーシュ・ワロンヌ・フェミニーヌに関しては12回の参戦で、いまだ表彰台3度止まり。自らに足りないタイトルを、この4月にこそつかみ取りたい。過去10回参戦し、表彰台に2度上がってきたカタジナ・ニエウィアドマや、6度参戦し最高位2位のセシリーウトラップ・ルドヴィグにだって、優勝のチャンスは大いにあり。

今年は大会史上初めて、男子の勝敗が決した後に、女子がフィニッシュを迎える。すっかりヒートアップしたユイの壁が、最後にもう一度、強き女性たちのアタックで燃え上がる。

文:宮本あさか