新型コロナウイルス感染症の後遺症で特徴的に見られる免疫系の異常な活性化は、感染から2年でおおむね鎮まることを示した論文が、4月17日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された。長く続く症状に悩む患者たちに、緩やかな回復がありうるという希望をもたらす研究結果だ。

 新型コロナにかかった人のおよそ10人に1人は、疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりする症状)、息切れ、動悸、抑うつなどの幅広い症状に悩まされる。こうした状態はまとめて新型コロナ後遺症と呼ばれ、数週間から数カ月、ときに数年も続くことがある。

 新型コロナ後遺症の原因はまだ解明されていないが、免疫系の異常な活性化が症状の持続に大きな役割を果たしていると考えられている。

 今回の研究では、後遺症の症状が改善しなかった患者もいる理由は解明されていないが、研究を率いたオーストラリア、セント・ビンセント病院の感染症内科医ゲイル・マシューズ氏は、他の異常が原因になっている可能性があると話す。しかし、多くの患者では、最初の感染から2年後には、免疫系の異常な活性化や自己申告の症状が大きく改善したことが示されたという。

後遺症を示す血液中のマーカー

 新型コロナウイルスによる感染の第1波がオーストラリアを襲った2020年4月、同国ニューサウスウェールズ大学カービー研究所の科学者たちは、一部の新型コロナ患者から血液サンプルを定期的に取り始めた。患者はその際、自身の健康状態についても報告した。なお、ワクチンの接種が始まる前だったため、感染したときに接種を受けていた患者はいない。

 2022年に、これらの血液サンプルを分析した論文が医学誌「Nature Immunology」に発表された。それによると、感染から8カ月たっても疲労感や息切れ、胸痛などがある人は、後遺症がなく完治した人に比べて、炎症に関係する「サイトカイン」という分子の血中濃度が高い状態が続いていた。

 サイトカインは免疫細胞から放出される物質で、免疫細胞はサイトカインを使って連絡を取り合いながら効果的に免疫反応を起こして体を守る。サイトカインの濃度は通常、最初のウイルス感染から回復して30〜90日で正常値に戻る。

次ページ:「非常に意外な発見でした」