高校演劇の作品を映像化する企画として『アルプススタンドのはしの方』(2020) からスタートした[高校演劇 リブートプロジェクト]の第2弾、それが映画『水深ゼロメートルから』です。本作は2019年に四国地区高等学校演劇研究大会で、文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した演劇の映画化ですが、脚本を書いたのが当時、高校3年生だった中田夢花さん。本作でも本人が脚本を担当し、監督には『リンダ リンダ リンダ』(2005) 、『カラオケ行こ!』(2024) の山下敦弘監督という異色の顔合わせです。物語は、女子高生4人がプール掃除をしながら、互いの思いをぶつけ合い寄り添い合う爽やかな青春群像劇。今回は【ココロ】を演じた濵尾咲綺さんと、【ミク】を演じた仲吉玲亜さんにお話を伺います。

――お2人は2021年に上演された商業演劇「水深ゼロメートルから」の舞台でも同じ役を演じていましたが、徳島の方言での台詞は大変でしたか。

仲吉:大変でした。演劇もこの映画も脚本を書かれたのが中田夢花さんで、徳島県出身の方だったので今回の現場にも来ていただいたんです。あとはわからない台詞は録音してもらって、それを聞きながら覚えました。撮影中も方言指導の方が居て下さったので台詞を直してもらったりしました。

濵尾:方言指導の方は台詞をずっと聞いていてくれて、違っていたら何回もマイクで指摘して下さるんです。遠くで反応をくれたりもしていました。舞台の時も脚本の中田さんがずっと教えて下さいました。

仲吉:舞台も全部、台詞は方言でした。舞台版の原作者でもある中田さんがこの本を書かれたのが、高校3年生の時と聞いて「凄いな」と思いました。こんなにも思春期ならではの悩みを、登場人物ひとりひとりにぶつけているんです。私自身、高校生の時に演じていたので色々と刺さるものがありました。

濵尾:本当に衝撃だよね。中田さんが「高校生だから書けた」とインタビューでおっしゃっていたんです。それを聞いた時に、確かに高校生だからこそ感じていること、先生に対する気持ちなどが台詞からまっすぐに伝わって来ました。そこが、現役高校生の強いところだと思いました。

――心に刺さる台詞がたくさんありましたが、濵尾さんと仲吉さんが刺さった台詞を教えて下さい。

仲吉:私は【ココロ】の「JKなめんな」です。この台詞が大好きなんです。

濵尾:嬉しい。

仲吉:先生が怒っている時、「女子高生、なめんな」って思ったりしました(笑)女子高生って本当に無敵だし、それこそ皆が色々とぶつかってモヤモヤしていて、映画では【ココロ】の弱さも見られた後のあの強がった台詞が凄く好きでした。その感情が素敵ですし、“世の中に向かって「JKなめんな」って言ってやりたい”っていう感じです(笑)。

濵尾:私は【ココロ】の「可愛い私が好きやから。誰かのためではなく、私のためにメイクしてる」という台詞です。私自身も中学生の頃からモデルの仕事をさせて頂いていて、見られることのプレッシャーみたいなものがあって“可愛くないといけない”と思ってしまう自分がいたんです。舞台で【ココロ】に出会った時、私が一番共感したのも【ココロ】でしたし、【ココロ】の言葉に救われた自分がいました。この台詞は“たまに思い出したいな”と思っているくらい大切です。

――私もその台詞好きです。仲吉さんは【ココロ】の台詞をどう思われていますか。

仲吉:【ココロ】の台詞っていちいち刺さるんです。今の台詞もその通りだと思います。SNSで批判とか誹謗中傷が多い中で、例えばメイクをしている姿を見て、ちょっとでもその人が気に入らないところがあれば「ここが変」や「ブサイク」など批判の声が上がる世の中ですよね。でもメイクも服も全て、誰かのためにやっている訳ではなくて、女の子特有の「自分がしたいからしている」なんです。誰かの意見を求めてやっているわけでもありません。あの言葉は、生きていく中で背中を押してくれる台詞だと思います。

――思春期の頃って特に、自分磨きというかメイクとかファッションに興味を持ちますよね。

仲吉:私が中学の時、皆がちょっとメイクを覚え始める時期だったんです。メイクをしていると早く大人になりたいんだろうとか、早く大人になろうとしていると思われてしまって、恥ずかしい気持ちになったこともありました。でもその時も、自分のためにメイクをしていたので、本当に素敵な台詞だと思います。

――お2人はどんな大人になっていきたいですか。

仲吉:私はカッコイイ女性になりたいです。強い女性に憧れています。芯を持ってそれを貫いている女性が本当に好きですし、自分もそうなりたいと思っています。先輩の女優さんで言うと満島ひかりさんが好きです。尊敬しているのは永野芽郁さん。考え方や見せ方など素敵だなって思います。

濵尾:私ももちろん強い女性に憧れますし、意思が強い女性になりたいとも思っています。私は母を凄く尊敬していて、憧れてもいます。母のような包み込んでくれる心の広さ、優しさだったり、気遣いだったり、思いやりがある女性になりたいです。

仲吉:そうですね、私もお母さんを尊敬しています。私は自分のことで手一杯でしたが、お母さんは子供のこともあって自分のことだけではないので‥‥。高校生の頃は毎朝お弁当を作ってくれていて、“凄いな”って思っていました。

――撮影の期間中はどうされていたのですか。

仲吉:仲が良すぎて寝る前まで、皆で一緒にいました(笑)。宿泊していた宿に大浴場があって毎日皆と大浴場に行って一緒にお風呂に入り、寝るギリギリまで部屋に集まって話しをしていましたね。

濵尾:集まって方言の練習とかもしたよね。

仲吉:ご飯も一緒だし、本当にず〜っと一緒でした。寝るまで(笑)。

――合宿状態ですね。

濵尾:本当にそんな感じでした(笑)。

仲吉:撮影が終わって帰る時には、達成感もありましたが寂しかったです。

――映画の撮影での忘れられないシーンはどこですか。

仲吉:私は【ココロ】と言い合うバトルシーンです。この部分は舞台版【ミク】と映画版【ミク】では、一番変わったシーンでもあります。舞台で一度【ミク】を演じていたからこそ、舞台での演技がクセになってしまっていて、その演技が正しいと思って演じていたんです。でも映画は舞台ではないので、その演技が少しオーバーになってしまっていて、山下監督からも「もう少し自然な感じがいい」とアドバイスをいただき、自分で客観視した時に、“【ミク】はこんなにも言えない”と気づいたんです。一番しっくりくる演技は何なのかを見つけたくて山下監督に相談して、色々なやり方で演じてみたりもしました。もちろん濵尾さん演じる【ココロ】とも話し合いながら“何が一番いいか?”と色々と考え合って、悩みながら撮影したシーンです。

濵尾:あそこは印象的だよね。他のシーンを挙げるなら、私は【ココロ】がさとうほなみさん演じる【山本先生】と言い合いをするシーンです。生徒が先生に対して強気でものを言う事態がちょっと怖いことで、勇気がいることなんです。でも、ビビリつつも“それでも言いたい!【山本先生】のそれが許せない。これを言わないと自分の心が守れない”という気持ちになっている【ココロ】を作り上げていくために、色々と考えながら撮影していきました。

それにほなみさんがとにかく美しくて‥‥。カットがかかる前までは【山本先生】なので本当に滅茶苦茶怖いんですが、カットがかかった瞬間に「美しい」って口に出てしまうんじゃないかと思うくらいで(笑)。だからそのギャップが凄かったです。

――お2人は舞台の頃からの仲ですが、お互いを一言で表現するなら何ですか。

仲吉:優しいお姉ちゃん。本当に頼れるし、私の性格を分かりきってるんです。例えば「そこに置いたら失くさない?」とか(笑)“私の性格、全てばれてる”って思います。私からしたら「面倒見の良い優しいお姉ちゃん」って感じです。

――忘れん坊さんなんですか。

仲吉:そうですね‥‥。忘れたり、失くしたり、色々と雑なところがあって、お姉ちゃんにいつも助けてもらっています(笑)。

濵尾:(笑)素を出してくれているのが分かるから、本当に“嬉しいな”って思います。

仲吉:ほぼ家族みたいな感じで、お喋りしています。

濵尾:私にとっては可愛いビタミンです。いつも栄養をもらっています。元気だし、可愛いし、「ハマちゃん」って声をかけてくれるのも“可愛い”と思っていて、「コヨシ」に会うとテンションが上がるんです(笑)。だから彼女は私のビタミンだと思っています。

仲吉:嬉しいですね。

――「ハマちゃん(濵尾)」「コヨシ(仲吉)」で呼び合っているんですね。

仲吉:仲良しこよしで「コヨシ」と呼ばれています。

濵尾:「ハマちゃん(濵尾)」と「コヨシ(仲吉)」です(笑)。

仲吉:舞台の時に「あだ名を決めよう」ということになって、皆であだ名を決めたんです。

――仲吉さんは普段からありのままなのですか。

仲吉:そうですね。素が出ると人にグイグイいく感じかもですね。初対面だとちょっと様子を見ちゃうんですが、私が大好きな今回のメンバーだと、ありのままの自分で喋りかけて、ワチャワチャする感じです(笑)。舞台から映画までの間が2年間空いたのですが、その2年間の間も何回か遊びました。

濵尾:ご飯行ったり、色々といっぱいしたね。今日はこの後、メインキャスト4人でお泊りするんです。

――リブート版(再起動)が作られるといいですね。

濵尾:やりたいです。

仲吉:このメンバーで撮影出来たことが一番嬉しいです。

濵尾:本当にそうだよね。

――リブート版(再起動)ならいくらでも作れますね。大学生バージョンとか。

仲吉:お願いしたい。

濵尾:本当にお願いしたいです。

――新しい現場に行く時に気にかけていることはありますか。

仲吉:私は自分の性格を作ったりすることが得意ではないので、“こういう自分であろう”みたいなものも考えずに新しい現場に行きます。“ありのままの自分を見てもらう”ということを一番大切にしていて、それこそ変に良い人ぶらない、作らないことが一番大切だと思っています。そのほうが自分の良さも見せることが出来たりもするので。最初は人見知りなところもあって静かになってしまいますが、なるべく自分を出そうとします。

濵尾:逆に私はグイグイいけないタイプだったので、コヨシの背中を見て参考にさせてもらっているんです。

仲吉:本当に!(驚)

濵尾:いつかコヨシみたいに喋れるように、グイグイといけるようになりたいと思って、コヨシを観察していたんです。私はすごく緊張してしまうので、自分の世界に入り込まないように色々な人の目を見るようにしたりして、コミュニケーションをなるべくとるようにしたいと思っています。

仲吉:初耳でしたが、とっても嬉しいです。

濵尾:言っちゃった(笑)。

――これだけ仲の良いグループなら他の現場でも共演したいですね。

仲吉:いつも期待しながら現場に入ったりしているんです。

濵尾:居るかな?ってね。

阿吽の呼吸とはこんな関係だよな。微笑ましくてずっと2人が話している姿を見ていたいと母心さえ生まれたインタビューでした。タイプの違う2人と、更にタイプの違うキャストで奏でる「女子高生の叫び」。それには青空が似合うし、真っ青な青春を象徴している景色の中で衝突したり、通い合ったりする映画『水深ゼロメートルから』。仲吉さんと濵尾さんがまた別作品の別の役で共演している姿も見てみたいです。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 岸豊

作品情報 映画『水深ゼロメートルから』

徳島南高校・2年生の夏休み。阿波踊りの練習を見られたくない内気なミクとメイクをしてないと落ち着かないココロは、体育教師の山本から水泳の授業の特別補習として水の入っていないプールの掃除を指示される。そのプールの底には、隣の野球部グラウンドから飛んできた砂が積もっていた。渋々砂を掃き始めたふたりと、なぜかそこにいるやけっぱちな水泳部のチヅル、やがてやって来た水泳部を引退した3年の先輩ユイたちの他愛のない会話で放課後の時間は過ぎていく。徐々に彼女たちの悩みが溢れだし、それぞれの思いは時にすれ違い、時にぶつかり合っていく。

監督:山下敦弘

原作:中田夢花 村端賢志 徳島市立高等学校演劇部

出演:濵尾咲綺、仲吉玲亜、清田みくり、花岡すみれ、三浦理奈、さとうほなみ

配給:SPOTTED PRODUCTIONS

©︎『水深ゼロメートルから』製作委員会

2024年5月3日(金) 公開

公式サイト suishin0m