【著者インタビュー】浅倉秋成さん/『家族解散まで千キロメートル』/KADOKAWA/1870円

【本の内容】
 浮気をした前科があり、《まるで存在そのものが、巨額の借金のような》父・義紀と、夫の代わりにパートで働き家族を支えてきた母・薫。その間に育った3人の子ども。既に家を出て結婚をしている長男に加え、長女・次男の結婚が決まり、《「なら、解散しかねぇだろ」》と1月4日に家族を解散することに。その3日前、元日に事件は起きる。庭の倉庫に見知らぬ木箱が。その中には、仏像が入っていたのだ。テレビでは、青森十和田白山神社のご神体が盗まれたこと、宮司が≪犯人が反省して無事にご神体を返してくれるなら、私は全部許す覚悟だよ≫と語っていた。犯人は行方不明の父なのか!? かくして解散間近の家族による、1000キロにわたるドライブが始まる──。

「どんでん返し」への期待と重圧を感じながら書いた

『六人の嘘つきな大学生』や『俺ではない炎上』と話題作が続く浅倉秋成さん。待望の最新作は「家族解散」をテーマにしたロードノベルだ。

「(版元の)KADOKAWAさんとは、最初に高校生のお話を書いて、そのあと大学生と社会人の話だったので、『次は家族ですかね?』という自然な流れになりました」

『六人の嘘つきな大学生』の大成功もあって、「どんな風にあっと言わせてくれるのか」という「どんでん返し」への期待も高い。

「たくさんのかたに読んでいただけたのはとんでもなくうれしいけど、間違いなくプレッシャーですね。『これ書いたやつ、次は何書くんだろう?』っていう期待と重圧を感じながら書いた作品になります」

 長女と次男がそれぞれ結婚することになり、全員バラバラでの引っ越しが決まった喜佐家。引っ越しの準備中に元日早々、倉庫から見慣れぬ箱が見つかり、青森の神社から盗まれたご神体とわかる。不在の父のしわざなのか、真相がつかめぬまま家族は青森まで返却の旅に出る。タイムリミットはその日じゅうだ。

 喜佐家があるのは山梨で、青森までは車で北上する。残りの距離と時間が作中に表示されて、思いがけず距離を稼げたり、アクシデントで遅れたり、ずっとハラハラさせられどおしになる。

 あのルートは実際に運転してみたんですか?

「ありがたいことに、いまはGoogle Mapで計算できますので。ゴールを本州の最北端に近い青森に置いて、朝気づいて1日で行けるか行けないか、ちょうどいいデッドヒートになるのが山梨だろう、という風に場所を決めていきました」

 車の運転は大好きだそうで、旅好きなのかと思えば、ものすごい出不精だというから面白い。

「月曜日に外出したら次は翌週の月曜日みたいな感じです。でも一昨年、佐賀県嬉野市の和多屋別荘という温泉宿が企画する『三服文学賞』のプロモーションの一環でお招きいただいて、初めて佐賀県に行ったんです。関東を出たのが10年ぶりぐらいで高揚感がすごくて。漫画原作(『ショーハショーテン!』)の取材で大阪にも行き、『日本、意外にちっちゃいぞ』とようやく気づいて、前よりは移動できるようになりました」

 小説を書くにあたり、「家族とは何か」を知ることから始めた。

「『家族で』というボールを編集者から受け取ったときに、まず『家族』を知らねばなるまいと思いました。歴史や文化人類学の本を読み、編集者や周りの人に『自分の家族はこうだった』という話をざっくばらんに話してもらって。みんなちょっと変、だけどおおむね平凡で、という感じの話をたくさん聞いて、『家族とはこれこれである』とはたぶん言えないなということに気づきました。家族仲良く、ほっこりするお話だと、『そういう家族もあるでしょうよ』ということにしかならないのかな、って。もっと根幹の、概念に切り込む話にしたほうが普遍性が出るんじゃないかと思ったんです」

大学のゼミの先生が「なんで身内だと嫌なんだろうね」と

 父の浮気も物語の核のひとつになっている。浮気現場を目撃された父は家族の中で居場所を失う。失って当然だろうで終わらせず、浅倉さんはなぜ当然なのかも考えてみる。

「5年ぐらい前に大学のときのゼミの先生と食事したんです。ちょうど芸能人の不倫報道が過熱していて、ぼくはあまり気にならないほうなので、『みんな不倫の話好きですよね。ぼくも身内がやってたらどうかと思いますけど』ってボソッと言ったら、先生が『なんで身内だと嫌なんだろうね』と言ったんです」

 そこで終わったはずの会話が、喉に刺さった小骨のようにいつまでも引っかかっていた。

「ぼくは割と、答えが出るまで細かく考えちゃうたちなので、身内が不倫したらなんで嫌なんだろう?って心のうちにメスを入れていくんですけど、切っても切っても核が見えてこない。真理が意外と遠い感じで、それがいいことか悪いことかは別に、この遠い感じはなんだか面白いなと思いました」

 答えが見つかるまでいろんな角度から考え続ける。今回、家族について書くと決まって、恩師との会話がよみがえってきた。

「記憶力は結構いいほうで、作家として助けられてるなと思います。『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)が好きでよく見るんですけど、どの回にどういうエピソードが出てきた、みたいなことはだいたい覚えてますね。何か書こうと思ったときに、そういえば、あの問題といま向き合うときなんじゃないか、ってひょっと拾いあげてくる」

 ちなみに、終盤の結婚式の場面での友人が口にするせりふも、浅倉さん自身が実際に言われたことがあるものだそうだ。

 綿密にプロットをつくってから作品を書き始める。書きたい場面をポストイットに書いて、ホワイトボードに貼りだしていく。

「左上が物語のスタート、右下が終了で、ポストイットに場面を書き出して貼っていきます。途中で謎の車に追いかけられたら面白いなと思いついたら、だいたいこの辺がいいかなと貼ってみる。全体を俯瞰できるのがこのやり方のいいところで、ノートだと小さいからホワイトボードを買いました。足したり引いたり入れ替えたりを十全にやったうえで、次はExcelにシーンを全部書き出し、書き終わったセルに色をつけます。そういう執筆のメソッドみたいなのを考えるのも好きですね」

 今回の作品も、出世作となった『六人の嘘つきな大学生』も、一人の人間を理解するのは簡単なことではないという浅倉さんの人間観がうかがえる。

「中学生、高校生ぐらいのときに、噂話で勝手にこうだと決めつけられた経験が何度かあったせいかもしれません。小説は、“どこを切り取ってどう見てもらうか”という世界だから、そういうのもうまく利用しないといけないんですけど、短絡的に決めつけてはいけない、という気持ちは常に心のどこかにありますね」

【プロフィール】
浅倉秋成(あさくら・あきなり)/1989年生まれ。2012年に『ノワール・レヴナント』で講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。2019年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』が本格ミステリ大賞〈小説部門〉候補、日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉候補となる。2021年に刊行した『六人の嘘つきな大学生』は山田風太郎賞候補、「2022年本屋大賞」ノミネート、吉川英治文学新人賞候補となる。2022年に刊行した『俺ではない炎上』は山田風太郎賞候補、山本周五郎賞候補となる。「ジャンプSQ.」で連載の『ショーハショーテン!』(漫画・小畑健)の原作も担当している。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2024年4月25日号