5月6日に東京ドームで開催される4大世界戦の公式会見が4日、横浜市内のホテルで行われた。出場8選手がそれぞれ抱負を語り、メインで戦うスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)と元2階級制覇王者のルイス・ネリ(29、メキシコ)は共にKO宣言をした。4万人以上の観客がつめかける予定で、井上へのファイトマネーを含め、総額で30億円を超える日本ボクシング史上過去最大規模の興行となる。

 100人を超えるメディアが横浜市内のホテルの会見場に集まった。白と黒のツートンカラーのジャージに身を包んだ井上は、机の上に4つのベルトを並べた。
「いよいよ、この日が来た。明後日はとてつもない試合ができると確信している。ドームでのメインイベント。エキサイティングした試合でKOで勝つ姿を見ていただきたい」
落ち着いて溢れる自信を言葉に変えた。
一方のネリはサングラスをかけて不敵にガムを噛み「死を覚悟して戦いに挑む。井上がどんなボクサーかをわかっている。その上で勝利の確信がある。KOで必ず勝ちたい」と宣言し「すでにリミット内にある。体重は問題ない」と、計量前日に55.34キロのスーパーバンタム級のリミットをクリアしていることを明かした。
減量用のガムを噛んでいたことで、その発言を鵜呑みにできなかったが、関係者の1人は「ネリの体重は来日してから毎日チェックしている。本当にすでにリミットに落とした。心配はない」と証言した。2018年の山中慎介戦の前日計量で2.25キロもの体重超過を犯して、JBCから無期限活動停止処分を受けた過去があり、今回は無事に計量をクリアできるかが最大の懸念材料だった。
大橋秀行会長は「1ポンドでもオーバーした試合はしない」と公言。ネリが失格となった場合の予備選手として第1試合に元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)のカードを組んだほどだった。だが、計量前日にリミットをクリアしたことで、井上が「事前に(ネリの)体重が仕上がっていると聞き安心しているが、改めて目の前で見て非常にいい状態に仕上がっているなと思った」と語るなど、不安も一蹴、無事にビッグマッチのゴングが聞けそうである。
何から何まで過去最大規模の興行となる。
34年前の東京ドームでのマイク・タイソンージェームス・ダグラス戦をプロモート、2022年には、村田諒太とゲンナジー・ゴロフキンのミドル級の2団体統一戦のビッグマッチを実現し、ずっと井上のプロモートに協力してきている帝拳の本田明彦会長も「間違いなく日本での過去最大のイベントになる」と断言した。
プロボクシングの興行収入の内訳は、入場収入、放映権料、スポンサー料、グッズ売り上げの4つ。来日したトップランク社のボブ・アラムCEOは、この日、「私の視点からいうと日本以外で井上の試合はありえない。馬鹿げている。あれだけの人気と強さを誇る選手は他にいない。日本が世界で軽量級ボクシングの中心になっている。東京ドームの4つの世界戦も軽量級でしょう。井上が日本を出て試合をするのは何のため?」と発言し、さらに「今回は入場チケット代も大きい。Amazonもたくさんの投資を行い大金が動く」と明かした。
その世界一の軽量級マーケットを実現したのは、Amazonプライムビデオが先陣を切って参入した配信ビジネスからの莫大な放映権料だ。
村田―ゴロフキンの放映料は、5億円を超えていたとされるが、今回の放映料も過去最大級だという。ただ東京ドーム興行では入場料収入が一番の軸となる。4万人を超える観客が詰めかける予定で、本田会長は「ゲート収入はこれまでの倍以上」と説明した。

 タイソンの東京ドーム興行は1988年と1990年に2度開催され、それぞれ5万1000人と5万1600人の観客動員を記録したが、チケットの最高額は10万円と15万円。今回はリングサイドの最高額は22万円のため、必然的に入場収入は跳ね上がる。共同プロ―モーターのトップランク社の幹部が、Xに「ゲート収入は2000万ドル(約30億6000万円)プラス」と投稿したが、その線に届く可能性は高いだろう。
村田―ゴロフキン戦では、国内の独占放映権と海外の放映権を分けて、DAZNからゴロフキン側に15億円のファイトマネーが支払われたため、興行規模としては、20億円を超えたが、今回は、それをも上回るビッグイベントとなる。ゲート収入と放映権料だけで、30億円を余裕で超えることが予想される。
気になるのは、井上のファイトマネーだ。日本のボクサーの過去最高額は、ゴロフキン戦で村田が手にした5億円とされている。だが、本田会長は「超えているじゃないの」と明かし「井上の場合は海外の関係者が驚くくらいスポンサーが多くついているからね」と、スポンサー料を含めると相当の金額になることを付け加えた。
本田会長によると、ボクシングは勝ち負けがハッキリとつき予想がつかないため、スポンサー料が賞金や出場料を上回るテニスやゴルフのプロ選手とは違い、世界的にスポンサーがつきにくい傾向にあるという。だが、井上だけは例外で多くの一流企業がサポートしている。今回もサントリー生ビールのCMに井上家が井上尚弥、拓真、真吾トレーナーの家族3人で出演して話題となった。
英大衆紙の「ザ・サン」は、昨年7月のスティーブン・フルトン戦で「井上は800万ドル(約12億2000万円)の総額のうち500万ドル(7億6500万円)を手にした」と報じているが、年間のスポンサー料をプラスして、1試合のファイトマネーに換算するとネリ戦のそれは限りなく10億円に近いものになるのかもしれない。数年前に井上は「将来的には、プロとして夢を与えるような金額は手にしたい。最低2桁はいきたい」と語っていたが、もうその夢の領域に手が届いた。
またネリのファイトマネーに関しても、本田会長は、2018年にWBC世界バンタム級王者として山中氏の再戦を受けた際のファイトマネーの「何倍も上」で、ネリにとって過去最大になることを明かした。
練習嫌いで知られるネリが「5か月間もパーフェクトなトレーニングをした」のも、計量前日にリミットをクリアしたのにも納得がいく。
またセミファイナルで元K−1王者、武居由樹の挑戦を受けるWBO世界バンタム級王者のジェイソン・マロニー(豪州)も、当初、5月11日に母国で開催されるワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)とジョー・カンボソス(豪州)のIBF世界ライト級王座決定戦のアンダーカードで防衛戦を行う予定だったが、急きょ、日本行きに方向転換するほどのファイトマネーをオファーされた。V2戦となるWBA世界同級王者の弟、拓真のファイトマネーもアップしている。大橋会長が負担する残りの世界戦3試合にかかる経費や東京ドームの使用料なども相当のものだが、興行規模が過去最大になるのも当然だろう。
ネリ戦が歴史的な最大イベントであることが、井上のモチベーション、そして力に変わる。
会見で井上は「こんなに素晴らしい環境、タイミングがそろった試合はない。4つのベルトを守るモチベーションを生かしてあさっては勝ちに行きたい」と口にした。
今日5日の計量を経て、運命のゴングは、いよいよ明日だ。
(文責・本郷陽一/ROSNPO、スポーツタイムズ通信社)