診察室から

 今年の干支は「辰(龍)」。前回(2月17日付)お約束したように、奈良の正倉院にある今から1200年も昔の「龍の歯」の正体を明かしたい。

 その正体とは近年の学術調査によると「インド象の歯」であることが判明した。かなり進化した象の上の歯の右第3臼歯で、人間でいえばいわゆる「親知らず」。象の頭蓋骨を考えてほしい。この頭蓋骨を少し右に傾けてみると、象の牙が龍の2本の角で下に歯が並んでいる姿は、まさしく龍の頭蓋骨に似ているのではないだろうか。昔の人々は龍の頭蓋骨として敬ったのかもしれない。

 象の頭蓋骨は巨大だ。頭や顎の形が特殊であること、耳や鼻は骨がないこと、歯が歯とは思えないほど特殊化していることなどから、元の姿を想像することは難しい。ではなぜ歯と判明したかというと、その成分と形状である。成分は、表層がほとんどヒトと同じように酸化カルシウムで成り立ち、ヒトの大臼歯に近い丘状型の臼歯だった。それもヒトが年を取るにつれ、咬耗(こうもう)が出現するが、これが現れているのである。

 ただし、現代人とはっきり違うのは、いわゆる「歯周病」や「むし歯」の痕跡がなかったこと。歯医者泣かせだが、誠に優秀な「龍の歯」であり、象の口腔(こうくう)内である。野生動物の親知らずはしっかり役に立っており、現代の人間が親知らずを敵視(?)し、抜いてしまうのとは、雲泥の差だと思う。

 参考文献=新・十二歯考(田畑純/著)

 (北村歯科医院 服部信一)