5月8日、東京都新宿区西新宿の超高層マンションの敷地内で住人のガールズバー経営者だったAさん(25歳)を殺害したとして、職業不詳、和久井学容疑者(51歳)が逮捕された。和久井容疑者はAさんの店の客だったが、動機については「(Aさんを)応援したかった。1000万円以上お金を出した」「お金を返してもらうために行った」などと供述している。

水商売のキャストは客に対して色恋営業を仕掛けることは珍しくないが、同業者たちは今回の事件をどう見たのか。

遊び慣れない男性は営業トークを脳内変換

捜査関係者の話によれば、和久井容疑者は自身のバイクや車を売った金で「被害者である女性に1800万円使った」とも話しているという。集英社オンラインが#2で報じた和久井容疑者の父親の話では、「(Aさんから)『本気で結婚するなら車とかバイクを処分してお金にしてくれ』と言われ、お金を渡した後に冷たくされた」という証言があった。

そして、つきまとい行為を繰り返した結果、2022年5月にストーカー規制法違反容疑で逮捕。釈放後は接近禁止命令が出されていたが、昨年6月にその有効期間が満了を迎えたこともあって解除されていた。

そのなかで起きた今回の事件は、和久井容疑者が趣味で所有していたものを売り払ってまで工面したお金を「騙し取られた」と一方的に恨みを募らせ、凶行に及んだと見られている。

また、#3で報じたところでは、Aさんは18歳で銀座でキャバクラ嬢としてデビュー。だが当時はパッとせずに1年で退職、ひきこもり生活を経た後に再び銀座のキャバクラに入店し、人気キャバ嬢となってナンバー1へ。そして、経営者として上野の湯島エリアにガールズバーやキャバクラ「C」をオープンした経歴があることが明らかになっている。

事件の全容が徐々に明らかになるなか、同業者は今回の事件をどう見たのか。歌舞伎町で働く25歳のキャバ嬢はこう言う。

「キャバクラなんだから、女の子も商売なんだっていう線引きができない男性が悪いと思う。たとえ結婚をほのめかされたとしても『何か裏があるのでは?』と疑わないと。

やっぱり遊び慣れてない男性はこういう罠に引っかかりやすいですよね。まあそれで成り立っている業種でもあるのですが……」

23歳の六本木のキャバクラ嬢はストーカー化する客の共通点をこう語る。

「金持ちの客がストーカー化するのは見たことなくて、だいたい今回の加害者みたいにギリギリで遊んでる人がなるイメージ。こういう男はキャバ嬢が『また会いたい!』って営業トークをすると『俺に会えてうれしかったんだ!』と勝手に脳内変換して本気になるんです。それがこの商売の恐ろしさだから、明日は我が身と思って気をつけます」

細客ほどストーカーに…

夜の世界を制した女性たちの意見はどうか。「美人茶屋 六本木」に在籍中はカリスマキャバ嬢として活躍した葉月芽生さんは、こう持論を展開する。

「男性は、相手を好きにならなければお金を使ってくださいませんから、水商売をやっている女性のほとんどが色恋の手法で仕事をしています。

私もかつて『結婚しようね』と言っていたお客さまがいましたよ。その方は私に1億円くらい使ってくれていたんですが、ある時期をさかいに経営がうまくいかなくなったらしく、お店で使ってくれる額が減っていったので潮時だと感じ、私から『やっぱり仕事をがんばりたい』『他に気になる人ができた』と言ってお別れしました。

それでも逆恨みされることはありませんでした。なぜきれいに別れられたかといえば、その方がれっきとした経営者で、使ってきたお金に悔いがなかったから。

今回の加害者は明らかにお金が潤沢にある方ではないですよね。ただ、そんな人からは無理に(お金を)引っ張り出さないのがキャバ嬢として基本のルールかなと思います」

しかし、そんなルールを守っていても、危険な目にあうことはあるという。

「私もストーカー被害にあったことがあります。しかも4人も。家の前や店の前で待ち伏せされたり、他のお客さまと同伴で入店しようとしたときに腕を掴んできたり。

ストーカーしてきた人たちが使ったお金はそれぞれ総額20〜30万円くらい。こういう方たちのほうがお金もないのに無理していらっしゃって、『こんなに使ってやっただろ!』と見返りを求めてくる傾向にあると思います」(葉月さん)

だからこそ、お金のない客に無理をさせないのもキャバ嬢の仕事だという。

「新規のお客さまは名刺をいただくのはもちろんのこと、飲み方やクレジットカードの種類を見れば、その方の(支払いの)キャパシティがわかります。

見栄を張ってしまいがちな男性の懐事情をご本人以上に把握することも大事なのです。
とはいえ、今回の被害女性はお仕事熱心でその方なりにお客さまに対応していたことと思います。このような事態になり、お悔やみ申し上げます」(葉月さん)

命の次に大事なものを売ってまで金をつくる客もヤバイ

一方、「今回のケースはかなり珍しい」と話すのは歌舞伎町の元ナンバー1キャバ嬢で、現在は「club R」を経営する桜井野の花さんだ。

「ホストは女性客がお金を持ってなければ風俗勤めをさせたりしてお金をつくらせますけど、キャバクラで遊ぶ男性はお金を持っている人が大半で、女性客のように飲むお金のために仕事を変えたり体を売ったりすることは基本的にはありません。

だからこそ、今回のように命の次に大事な車やバイクを売ってまでお金をつくろうとする男はちょっとヤバイんです。

それがわからないわけはないと思うので、もしかしたら被害女性はかなりお金に行き詰まっていたのかもしれませんね」

桜井さんも男性客から一方的に付き合っていると思い込まれていた経験があるそうだ。

「以前、私に毎月のように1000万円近く使ってくれるお客さまがいました。ですが、グレーなことをして稼いだお金だとなんとなく気づいたのと、私への要求が増えてきたのもあって、これ以上引っ張るとストーカーになりそうだなと思っていたんです。

そんなときに他店のキャストからその男性から口説かれていると相談を受けたんですけど、その子に対して『野の花とまだ完全に別れてないから、君のことは推しきれない』と言っていたそうなんです。私は『付き合う』とも言ってないし、結婚だってほのめかしてないのにマジかよ、と(笑)」

それを踏まえ、桜井さんは和久井容疑者が「結婚の約束をしていた」と供述していることに関して疑問を抱く。

「『これだけ金を使ったんだから自分は付き合ってる』と思い込んでしまうなんて男性ってつくづく怖いですね。でも、被害女性もそのあたりのことは理解されていたでしょうから、本当に容疑者に結婚をほのめかしていたのかな、と少し疑っちゃいます」

客に執着されるのはトラブルの元ということで、桜井さんはキャバクラの経営者としてこんな心がけをしているという。

「私はお店の女の子たちに『club R“が”いい、じゃなくてclub R“で”いいや、くらいに思ってもらえるような、隙間を狙う営業をしてね』と言ってます。推しの次に行く店くらいの位置づけのほうが、お金を落としてくださるんじゃないかなーって思うからです」

Aさんと和久井容疑者のあいだで“結婚の約束”があったかはわからないが、「妄想にとらわれた男性は何をしでかすかわからない」と、今回取材に答えた女性たちは異口同音に語る。それは夜に働く女性たちほど知っておかなくてはいけないことなのかもしれない。

※「集英社オンライン」では、今回の事件について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 河合桃子