家族について話す菊池亜希子さん(由木直子撮影)


祖母と同じ 素直になれないへそまがり

 小さい頃から、私はおばあちゃん子でした。同居していた父方の祖母は、口も悪いし、主張も強いし、こだわりも強かったので、母は大変だったと思うんです。でも、私には優しかったというか、甘かったんですよね。いつもこたつの定位置に座っている祖母の横が私の場所でした。

 祖母がへそまがりを発揮すると、献立を見て「私はそんなの食べん」、母が食べられるようにアレンジしても、かたくなに「いらん」。そういうやりとりを見て、姉は「お母さんがかわいそう。おばあちゃん、そんなふうに言わなくても」と母を守ろうとしていました。でも、私は素直になれない祖母の気持ちが、子ども心によく分かったんです。

 家で一番小さい私と、一番年上の祖母だったけれど、波長が合う部分がありました。大好きな祖母の、へそまがりな部分を「かわいい」と思えました。素直に喜べばいいのに突っぱねたり、へそを曲げたり。喜ばせようとして誰かがしてくれたことを、本当は笑って受け止めたいのに、ばつが悪くて笑えないところなんて、私とそっくりです。

 だから、「へそまがり」という言葉に、ネガティブな意味は感じていないんです。祖母と同じ、自分のこだわりや我の強さ、だけどちょっと繊細なところもあったりする複雑さ。それを的確に表しながらも、「へそまがり」という字面のかわいさが、自分の面倒くさい部分を肯定してくれるような気がしています。

「ママできた」 6歳の娘が見せに来て…

 実は6歳の娘に対しても、「今、ぐるぐる考えてるな」と感じる場面が増えてきました。この4月から小学1年生になるのですが、人に気を使うことを覚えて、「喜ばせたい」「自分がしたことで悲しい思いをさせたらダメだ」という気持ちも芽生えてきました。4歳になったばかりの息子にはまだない、複雑な思いが育ってきています。

 先日、娘が家族を登場人物にした漫画を描いて、「ママできた」と見せに来たんです。娘と息子は遊んでいて、夫は車を洗っている様子。なのに私はパソコンを開いて仕事をしている姿で。見た瞬間、「そっか、なんかママごめんね。いつも家でも仕事しちゃって…」と、しょんぼりした反応をしてしまいました。

 絵を見た私の第一声に、娘はとてもショックを受けたようで、ポロポロ泣いてしまいました。私が落ち込んだことが、娘は悲しかった。「あなたが悪いわけじゃない。ママは家で仕事しすぎだよね。本当にごめんね。でも絵はすごい。上手に描けたよ」と精いっぱいフォローしたのですが、一度娘の心に落ちた影はもう消せなかった。

 こういう取り返しのつかないことが、子育てをしているとたくさんあります。全部受け入れられる母になりたいところですが、まだまだ瞬発的に感情が表に出てしまうことがあります。日々精進です。

菊池亜希子(きくち・あきこ)

 1982年、岐阜県生まれ。モデルとしてデビュー後、映画やドラマ、舞台で俳優としての活動の幅を広げる一方、執筆活動にも注力。主な出演作に映画「ぐるりのこと。」「森崎書店の日々」。今年2月にエッセー「へそまがりな私の、ぐるぐるめぐる日常。」(宝島社)を刊行。5月11日スタートのNHK土曜ドラマ「パーセント」に出演。

菊池亜希子さん著「へそまがりな私の、ぐるぐるめぐる日常。」(宝島社)