「にんじんにはビタミンA(β−カロテン)が多い」というイメージを持つ人は多いのではないでしょうか?

そんなにんじんの栄養素は、組み合わせる食品でより効果的になることもあれば、効果が減ることもあるんだとか。

管理栄養士と食生活アドバイザーの資格を持つライターのゆかりさんに、にんじんに含まれている栄養素やにんじんと相性のよくない食品について紹介してもらいます。

ビタミンAにはどんな働きがある?

ビタミンAとは、油に溶けやすい性質(脂溶性)を持つビタミンの一種です。おもに肉や魚などの動物性食品に、レチノールとして多く含まれています。

一方で、野菜や果物などの植物性食品には、ビタミンAに変わるβ(ベータ)−カロテンとして含まれています。β−カロテンのままではビタミンAとしての作用はありませんが、吸収されて小腸の細胞内で体に必要な分だけビタミンAに変わり、ビタミンAとして働くことができるようになるのです。(※1)

そんなビタミンAの働きには、おもにつぎのようなものがあります。

・目の網膜を保護したり、薄暗い所で視力を保つ
・粘膜(のど、鼻など)や皮膚を健康に保ち、免疫機能を高める

日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、1日の推奨量は18〜29歳男性で850μgRAE(※2)、30〜64歳男性で900μgRAE、65〜74歳男性で850μgRAE、18〜29歳女性で650μgRAE、30〜74歳女性で700μgRAEとなっています。

ビタミンAが不足すると乳幼児では角膜乾燥症や失明、大人では夜盲症(夜間視力の低下)が起こりやすくなります。それ以外にも、成長障害、骨や神経系の発達障害、皮膚の乾燥・肥厚・角質化、免疫力の低下から感染症にかかりやすくなるのだとか……。

令和元年国民健康・栄養調査におけるビタミンAの食品からの1日の摂取量からは、成人以上のどの年代にも不足していることがわかっているため、わたしたちは積極的かつ効率的に摂取する必要があるのです。

ただし、上で紹介したようなビタミンA不足に伴う症状は、長期にわたってビタミンAを含まない食生活を送った場合などに生じるものですので、必要以上に不安視する必要はないでしょう。


※1……これをプロビタミンAと呼びますが、β−カロテン以外にも50種類ほど存在しています。その中で一番効率よくビタミンAに変換されやすいのがβ−カロテンとなっています。そのため、この記事ではβ−カロテンを取り上げて紹介しています。

※2……ビタミンAの摂取基準では、変換効率がそれぞれ異なるプロビタミンAも含めた「レチノール活性当量(RAE)」として算出した値を用います。単位はmgの1/1,000の単位であるμg(マイクログラム)です。

ビタミンAをにんじんからとるべき理由は?

ビタミンAは、レチノールの形で動物性食品に多く含まれているというのは先述のとおり。

具体的に多く含むものには、たらのあぶらやレバー(牛、豚、鶏以外にも、あんこう、うなぎも含む)があります。これらは、いずれも100gあたり4,000μgものレチノール活性当量を含んでいます。

ただし、ビタミンAはとり過ぎることで健康に悪影響を与えてしまいます(頭痛、皮膚のはがれ、脱毛など)。それを防ぐために設定されている耐用上限量は、男女とも18歳以上で2,700μgRAEとなっているのです。

手軽にビタミンAを大量にできる食品の場合、耐用上限量を超えないように食べるのであれば量を加減する必要が出てくるというわけ。

一方、必要に応じて体内でビタミンAに変わるβ−カロテンであれば、耐用上限量はありません。加えて、β−カロテンにはつぎのような働きもあります。

・活性酸素の発生を抑えたり、除去する
・動脈硬化の進行を抑えたり、がん・老化・免疫機能の低下などを防ぐ

このことからも、ビタミンAを意識して多くとるのであればβーカロテンの多い食品を選ぶのがおすすめです。

β−カロテンを豊富に含む食品には、海苔(あまのり)、乾燥パセリ、乾燥唐辛子、しそなどがあります。これらはいずれも、100gあたりに11,000mg以上ものβ−カロテンを含みます(※1)。

ただし、いずれも通常の食生活において50gもとることは容易ではありません。一番含有量の多い海苔でさえ、男性の一番多い推奨量である900μgRAEを満たすためには28gほどが必要となり、日常的に食べるのは難しいといえるでしょう。

そのためほかに量をとりやすい食品で探してみると、含有量が100gあたり6,900μg(※2)であるにんじんにいたるわけです。にんじんであれば、150gほど(Mサイズ1本に相当)を食べるだけで1日の推奨量を補給することが可能に。

モロヘイヤも同等のβ−カロテンを含みますが、通年手に入れやすく量を食べやすいという観点からは、にんじんの方が優位といえるのではないでしょうか。

このようなことから、にんじんはビタミンAの補給源として理想的とがいうことができるのです。


※1……β−カロテン量は、レチノール活性当量に換算すると1/12に相当します。

※2……皮付きのにんじん(生)の含有量です。皮なしのにんじん(生)は6,300μgです。

にんじんと相性が悪い食品はある?

そんなビタミンAの補給源として理想的なにんじん。栄養の観点から相性が悪い食べ物はとくにありませんが、過度のアルコール摂取は肝臓に蓄えられているビタミンAを減少させてしまうので、にんじんを食べる際の飲酒量には気をつけましょう。

また、ビタミンAの働きには、魚介類・肉類・種実類(ナッツ)などに多く含まれている亜鉛が不可欠となります。

肝臓に蓄えられたビタミンAが粘膜や皮膚などへ運ばれていくためには特定のたんぱく質(※)が必要ですが、その合成には亜鉛が必須。そのため、全体的に亜鉛の含有量が少ない野菜や果物ばかりを食べていると、亜鉛不足になってしまうおそれも……。

昨今はヴィーガンに代表される菜食主義の方も少なくありませんが、そのような食生活を続けていると、せっかくのビタミンAが無駄になる懸念があるでしょう。

なお、野菜や果物を中心に食べている場合であっても、穀類や豆類にもいくらか亜鉛は含まれているため、そういった方はこれらも組み合わせてバランスよく食べるようにしてみてはいかがでしょうか。

※……レチノール結合たんぱく質のこと。

にんじんを工夫して取り入れてみよう!

ちなみに、ビタミンAやβ−カロテンは食べ方によって吸収率を高めることが可能。油と一緒にとると吸収がよいことは知られていますが、それ以外にもすりおろしたり、高温で加熱することも役立ちます。

この場合も油料理ばかり、加熱した料理ばかりになってしまうと、カロリーと脂質のとり過ぎから肥満などにつながったり、熱に弱いビタミンが十分に摂取できなくなってしまうことになるので気を付けましょう。

また、β−カロテンは同じく抗酸化作用を持つビタミンCやビタミンEと一緒にとり入れると、相乗効果が得られます。ビタミンCは野菜や果物に、ビタミンEは種実類や植物油などに多く含まれています。

β−カロテンの補給源としてメリットの多いにんじん。
せっかく食べるのであればこういったことを参考に、さまざまな食品と組み合わせてバランスよくとり入れてみてはいかがでしょうか?

構成/サンキュ!編集部