北朝鮮に拉致された可能性を排除できない「特定失踪者」は、全国で少なくとも871人いる。ABEMA的ニュースショーでは、そのうち「消えた川口の5人」と呼ばれる人々の家族に思いを聞いた。

【映像】佐々木悦子さんの失踪当時(複数カット)

 埼玉・川口市では、政府が認定している「拉致被害者」である田口八重子さんに加え、特定失踪者の井上克美さん、藤田進さん、佐々木悦子さん、新木章さんが姿を消した。

 佐々木悦子さんの母、アイ子さん(87)は、悦子さんの失踪から33年間、娘の帰りを待ち続けている。悦子さんは川口市内の高校を卒業後、銀行に勤務し、結婚5年目の27歳で行方不明となった。

 アイ子さんが事態を知ったのは、嫁ぎ先からの「悦子、そちらに帰っていますか?」との問いかけだった。1991年4月のある朝、「会社に行く」と伝えて、そのまま姿を消した悦子さん。アイ子さんは「まさかその歳で連れ去られたとは考えられない」と語る。

 北朝鮮に拉致された可能性がわかったのは2003年、行方不明になって13年目だった。脱北した元特殊部隊員の証言で、拉致の疑いが強まった。

「何十年経っても帰ってこない。信じられない。どうして、いろんなことを抱えなきゃいけない人間と、なんでもない幸せな人間がいるのか。なんで私にだけ、こういうことがあるのか……」(佐々木アイ子さん)

 アイ子さんは、悦子さんとの写真を、常にカバンへ入れている。父親は2006年に他界し、娘の姿をもう一度見ることはかなわなかった。

「どうか悦子が1日でも早く日本に帰れますように。どうかよろしくお願いします」

 アイ子さんは朝と晩、玄関の扉を開け、悦子さんが帰ってくるのを祈っている。

「悦子はすごくしっかりしている。北朝鮮へ連れて行かれても、泣いていることはないと思う。かえって強くなるかもしれない。私の生きているうちに、1回でも会えれば幸せ。(もう一度会えたら)外に出さない」

 政府が認定した「拉致被害者」は17人で、このうち5人が帰国している。一方で「特定失踪者」は北朝鮮による拉致の可能性を排除できない871人の行方不明者を指す。特定失踪者問題調査会の荒木和博代表は、「どんなに拉致の可能性が高くても、政府が認定しない限りは、特定失踪者になる」と説明する。

「1990年代初めは、全国で若い女性が、不自然に居なくなるケースが多かった。時期や場所、仕事など、失踪の状況から見て、拉致の可能性が高いと推測される」(特定失踪者問題調査会・荒木和博代表)

 特定失踪者の共通点として、偽札作りのための印刷業、通信機能整備や通信傍受のための電話通信業・電話交換手、軍人の手当てや病人を治療するための看護師、核兵器開発に利用するための機械工などの職業がある。また、1980〜90年代には、10代後半から20代の女性が拉致されるパターンが多く、「男性の拉致被害者の結婚相手」や「女性工作員育成」のためと考えられている。また川口市での失踪事例も多いという。

「ひとつ一つで見ると、ただの失踪に見えるものが、並べて見ると不思議な繋がりがあるケースがある」(荒木代表)

(『ABEMA的ニュースショー』より)