パレスチナ・ガザ地区での戦闘防止を求めるイスラエルへの抗議デモが、全米の大学に広がっている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校では、バリケードを張る学生に対し、警官隊が突入。反イスラエルのデモ隊と親イスラエルのグループの衝突も起き、15人が負傷した。

【映像】米大学各地のデモの様子

 ウィスコンシン大学マディソン校では、デモを行う学生の拠点に警官隊が突入。ニューヨークのフォーダム大学でも、建物を占拠した学生らを強制排除した。コロンビア大学は、デモ参加者の処分や警察への協力を要請し、学生側も大学施設を占拠。混乱と衝突が広がった。

 デモの背景には、バイデン政権のイスラエル支援がある。コロンビア大学の学生側は大学に対して、学校に寄付する企業や寄付金の投資先などにイスラエルの軍需企業がないか、と回答を求めている。そこには学生たちの「イスラエル企業の利益に加担しているのでは」との当事者意識がある。

 アメリカ各地の大学で衝突が相次いだことに対し、政府は暴力的な抗議活動は許されないと発信した。いま、アメリカで何が起こっているのか、デモは有効な手段なのか。『ABEMA Prime』では、テレビ朝日・ニューヨーク支局の小松靖特派員と日本でパレスチナ連帯デモに参加している女性に聞いた。

■抗議デモ衝突の背景 外部の扇動者も?

 小松特派員によると、親パレスチナの学生側は「ガザの戦争に大学が加担するのは良くない。私たちの学費がそこに使われるのは許せない」との立場だ。「自分たちのできる範囲でガザ紛争を止めるのが彼らの思いだが、大学側からすると乗れない事情がある。アメリカ政府も企業も大学も、イスラエルとの結びつきが非常に強い。交渉がうまくいかない状態で、学生は座り込みを続ける。コロンビア大学では一部学生が立てこもり、警察に頼らざるを得なくなった。これが全米で起きている」と話す。

 コロンビア大学での建物占拠には「外部の扇動者」がいるとの指摘もある。テレグラフによると、ニューヨークのアダムス市長は「80回以上逮捕されている活動家“フィティアン”を含む、外部の扇動者が入り込んでいる」と警告。コロンビア大学も5月1日、「今回建物を占拠したグループは、大学とは無関係の人物に率いられた。悲しいことにテントの代表者たちとその人物が、1週間以上話し合い決定されたものだ」との声明を発表した。

 小松特派員は「デモ参加者は冷静で、純粋に『ガザ侵攻をやめよう』と言っているだけだった。『立てこもりは不法占拠』と言う人もいる」とする一方で、「プロの“扇動者”の女性が映像に映っていたことで、立てこもりや注目の集め方を指南するデモコンサルタントが入っているとわかり、現地では『警察が介入してよかった』という論調が広がった」と説明。

 反イスラエルが“反ユダヤ”へと発展する懸念もある。ユダヤ系学生への取材では、「パレスチナ支援の趣旨には賛同しているが、自分たちはユダヤ人というだけで中傷・嫌がらせや差別を受ける。身の危険を感じることもある」との声があったそうだ。

 小松特派員は、「多くのユダヤ人は侵攻を支持しているわけではないが、イスラエルにルーツがあるから、親イスラエルは当たり前だとの立場だ」とした上で、「『親パレスチナ』は言えるが、『親イスラエル』は口が裂けても主張できない。イスラエルに反対する機運が先鋭化する中で、攻撃の矛先が向けられている」と述べた。

■日本で“パレスチナ連帯”する意義

 明治大学1年生の鈴木さん(仮名)は、日本国内でパレスチナ連帯のために活動している。高校生時にデモの呼びかけ人となり、渋谷・新宿など各地のデモに参加。大学入学後、「立て看同好会」に入会し、構内でのスタンディングデモや、立て看板設置(明治大学では禁止)を行った。また、自身の入学式では、学長に対し「イスラエル工科大学との提携をやめろ」とプラカードを掲示した。

 鈴木さんは「数万人が殺される状況で自分が声をあげない理由はないと、連帯の活動を始めた」と動機を語る。「アメリカでの活動は心強い。ガザの住民が『コロンビア大学の学生ありがとう』と掲げる様子もSNSで見た。自分たちの運動を見てもらえることに希望を感じる」。

 パックンは、世界各地で民族衝突や虐殺が起こるなか、「なぜパレスチナ問題だけに参加しようと思ったのか?」と問いかける。鈴木さんは「パレスチナを訪れた人から話を聞いて、活動したいと強く思った。ミャンマーについて活動する知人からも話を聞きつつ、自分にできることをやっている。いまはパレスチナ停戦を求めて活動しているが、それが止まれば、他の運動にも手を広げたい」と答えた。

 抗議をめぐり、全米では1500人以上が逮捕されている。鈴木さんは「学生の勇気はすごいが、警察もやりすぎ。学生の非暴力的運動を、警察という国家組織が弾圧するように見える。学生との交渉がうまくいかなくても、警察がそこまでするのか」と印象を語った。

■バイデン政権への影響も?

 背景には、若者の“バイデン大統領離れ”も見える。ニューヨークタイムズとシエナ大学の世論調査(2023年12月)では、イスラエル・パレスチナ問題に関するバイデン大統領の対応について、18歳〜29歳の約75%が「認めない」と回答。ハーバード大学政治研究所が、2024年大統領選で投票する可能性を聞くと、18歳〜29歳の20%が「おそらく投票しない」「絶対投票しない」とした。

 学生たちの行動は、政権を動かすのか。小松特派員は「一番困っているのはバイデン大統領だ」と指摘。「トランプ政権からバイデン政権になって、移民を受け入れて厚遇したところ、国民は『移民を守るのは大事だが、税金の使途としては行きすぎ』となった。インフレで物価も上昇し、大統領選挙も迫るタイミングでのデモはまずい。政府としても票田としても、イスラエルにいい顔をし続けなければならず、行き詰まっている状態だ」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)