「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント第3部レポート

「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。3日には、女性アスリートや指導、保護者を対象としたオンラインイベントを開催した。全3部で現役アスリートや専門家を招き、第1部は「月経とコンディショニング」、第2部は「知っておくべき成長期のカラダと変化」、第3部は「男性指導者と女性アスリートのコミュニケーション」とテーマが設定された。

 今回は第3部をレポートする。ゲストに野球のクラブチーム・茨城ゴールデンゴールズの男女両チームの監督を務める元野球選手・片岡安祐美さん、専門家に五輪史やスポーツにおけるジェンダー問題を研究している中京大学教授・來田享子さん、男性指導者の代表として名古屋経済大学女子サッカー部監督・三壁雄介さんを招いてディスカッションが行われた。女性アスリート、男性監督、専門家それぞれの立場から考える、男性指導者と女性アスリートの理想の関係とは――。

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 ジェンダー平等の理念が社会的に広まる中、スポーツ界では月経など女性アスリート特有のコンディショニングが課題のひとつに。さらに体罰や暴言などのハラスメントも排除する動きがあり、男性が性別の違う女子選手を今の時代に適した指導を行うことの難しさもクローズアップされている。

 とりわけ、月経の課題にどう向き合うべきか悩みやすい。男性指導者の代表として参加した三壁さんは「凄く繊細な部分。知る必要があるからと言って、ずかずかと立ち入っていいものでもない。ただ、パフォーマンスに影響が出るので、指導者もある程度管理しなければいけないという矛盾がある」と率直に語った。

 小・中・高と男子の野球チームに交じってプレーし、男性監督の指導を受けてきたゲストの片岡さんは高校の頃、重い生理痛はなかったものの、練習中にトイレに行くタイミングが難しく、経血が漏れないか気になって集中できないこともあったエピソードを明かした。

 スポーツとジェンダーの問題に詳しい來田教授は「日本では長く、月経・体重のことは女性に聞いてはいけない、女性は隠さないといけない風習・習慣が根付いてきた。“触れたくない、触れてもいい”の個人差もあり、(生理の)重さも全然違う。個別に対応していくしかない難しさがある」と述べた。

 では、女子選手の生理とどう向き合えばいいのか。來田教授が大切と考えるのは、アスリートとして競技能力を向上させるために生理は科学的アプローチが必要な問題であると、選手と指導者が共通理解を持つこと。「パフォーマンス向上のために必要な情報と考えれば、(選手も)『イヤらしい』『隠さなきゃ』ということが自然と研ぎ落されて行く。そういう受け止め方ができるようなアプローチの仕方を目指していくことが必要」と解説した。

 ただ、男性からすると、実体験できない月経を理解するのが難しいのも事実。三壁さんは「(月経のつらさは)知るよしもない。だからといって、勝手に決めつけられるものでもない。例えば、多くの人が2日目に(生理痛が)重い時期が来るというのも知らないし、個人差もあると聞く。だから教えてほしいし、こちらも変に分かったふりをするのではなく、分かること、分からないこと、知りたいことを分けて考えてアプローチしています」と明かした。

 來田教授は「男性は女性のことを分からないという話になりがちですが、実は女性も女性のことを分かっていない。自分の仲間の生理がどういう状態か把握していないものです」と言及。「(症状は)一人一人異なるからこそ、コミュニケーションが大切になる。『分からないからいいや』ではなく、科学的知識としては知っておかないといけない。ただ、どう言葉として伝えるかは個人差を踏まえる必要がある」と話した。

 登壇者に共通するのは、“男性と女性”で考えるより“指導者と選手”として適切な関係性を作ることの重要性だ。「日本はスポーツ界そのものが上下関係が顕著」と歴史的背景に触れた來田教授は「指導者も一生懸命に頑張って“指導”をしなきゃいけないというアプローチになり、それが知らず知らずのうちに上下関係を作り、ジェンダー不平等の基礎になりやすい。でも、基本は人が嫌がることをしない。対等な人間関係の中で一緒に目標を目指していくこと」と語った。

 その上で「スポーツは、答えのない道を一緒に歩むことが最大の面白さ。その道を一緒に歩くことを大切にする関係性が作れるといい」と述べ、三壁さんも「ああしろ、こうしろという(上からの)指導では、選手からの声は聞こえてこない。お互い考えながら進んでいくコミュニケーションが取れるといいと思います」と頷いた。

女性アスリートに涙された時の言葉かけは?

 質問コーナーでは参加者の質問に登壇者が答え、議論はより活発に。

「初めて女子運動部の顧問になり、女子学生との距離の詰め方に困っています」という声に、來田教授は「距離の詰め方」という考えに違和感を抱いた。「(質問者は)物凄く一生懸命考えている方と思いますが、その表現にすでに上下関係が発生している印象。クラス替えをして、初めて同じクラスになった友達に『距離を詰める』とは言わない。新しい出会いだ、うれしいな、楽しいな、どう付き合っていこうかと考えるもの。それと一緒で、まずは出会いを楽しむ感覚でいい」と述べた。

 片岡さんは「一人の選手として向き合ってみるのはどうでしょう。“女子学生と男性指導者”として向き合うから、どう入り込んでいいのか迷う。指導者の遠慮は絶対に伝わる。遠慮があると、ふとした一言が嫌な気分になることにつながる。必要以上に遠慮せずに」と助言。三壁さんは「距離感は非常に難しい。近い方がいいとは思うけど、近すぎることで良いこと、悪いことがある。誰かと近いと、誰かと遠くなる。遠い方が楽な選手もいるし、一方的ではなくお互いにコミュニケーションを取れたら」と述べた。

「女性アスリートに涙された時にどんな言葉かけをしているか」という質問に、三壁さんは「泣くという感情表現は大きなもの。失敗したから、うまくいかないからだと勝手に決めつけるのではなく、話を聞くと全然違うところに理由があることがある」と実体験を披露。練習中に集中を欠いた選手に練習後に「どうしたんだ?」と話を聞くと泣き出し、実は私生活で問題が起こってメンタルが不安定になり、周りに言えないまま「もっと集中しろ!」と鼓舞されて耐え切れなくなったのだという。

「『泣くなよ』と表面的に終わらせるのではなく、『どうした? 何があった?』『どんなところが気になってる?』と探っていく必要がある。感情表現が強い分、向き合ってあげることが必要」と話した。逆に片岡さんは涙する時は寄り添うより突き放される方が楽だったといい、「いろんなタイプがいるし、男性も女性も関係ない。私も監督をしていて、涙を流した男子選手もいる。女性だから泣くわけじゃないし、涙の理由を理解して一人一人に合った方法が見極めることが大切」と力説した。

 2人の話を聞いた來田教授は「どの質問も近いところあるが、“男性と女性は違うだろう”という入口から来ていますよね。男女は違うから、女性はこうだろう、男性はこうだろうと。でも、“男女は同じだろう”からスタートして、違うところを探していく方が指導者も楽だし、選手を一人の人間として見やすくなる」とアドバイス。ほかにも、少人数でグループを作る女子選手への向き合い方や、男女一緒に練習をさせる際の注意点など、さまざまな観点から参加者の質問に3人で答えていった。

 そして、最後は「今後どういう変化があれば女性アスリートのスポーツ環境はより良くなっていくか」という質問に答えたのは來田教授。「これは遠い道のりかもしれませんが、大きく分けて3つ大きな変化が必要と考えています」と述べ、「指導現場の変化」「スポーツ組織の変化」「社会の変化」を挙げた。

「『指導現場』は、女性アスリートも年齢を重ねて体は変化し、結婚・出産・育児とライフステージも変えていく。たとえ、高校の指導者でも中学の指導者でも『この選手には長い人生があるぞ』と長期的視点で育成する環境を整えていく。そのために私たちのような研究者もデータを提供していく必要があります。『スポーツ組織』は女性アスリートを育てるために女性コーチ・トレーナーも増やしていく。『社会』はなかなかスポーツ界だけでは変えられないですが、スポーツは社会の一部。プロとして女性アスリートの労働者も活動する。結婚・出産などのライフイベントのために保育所がさらに必要と社会で言われている課題もスポーツと無縁ではありません」

 こうして1時間の内容が終了し、午前中から全3部に渡ったイベントも終了。参加者にとって女性アスリートの未来を考えるヒントが詰まった1日になった。

(THE ANSWER編集部)