寺の役割は、法事や葬式だけではないようだ。三重県伊賀市上野万町の浄土宗、西念寺(さいねんじ)に「寺カフェ」が3月末、オープンした。市内で初の取り組み。住職夫妻は「いろいろな人たちが集える、開かれたお寺にしたい」と話す。

 寺は旧上野市中心部の少し南にある。老朽化していた庫裏を改修し、席数はテーブル三つとカウンターで計12席。「店長」は西野龍弥(りゅうみ)住職(43)の妻、英美さん(41)が務める。メニューはコーヒーや抹茶、バナナ葉茶などの飲み物、パンナコッタや団子といったスイーツなど10種類。材料の産地や製造元を地元や県内にこだわり、器は伊賀焼や信楽焼だ。

 龍弥さんは大阪市の出身。印刷会社で英美さんと出会い、結婚。僧職の資格を取って2014年に住職になった。寺には、日本三大忍術伝書「万川集海(まんせんしゅうかい)」をまとめた藤林(冨治林)保武の墓がある。英美さんは消しゴム版画で色鮮やかな御朱印を作り、寺の周知に努めた。

■過疎、高齢化…檀家減る中「誰もが来やすい場所に」

 ただ、伊賀市内のもう一つの寺の住職も兼務するため、常時西念寺にいることが難しかった。「檀家(だんか)さんが来てくれても人がいない。防犯上もよくない」。英美さんがカフェを発案し、昨春に退職。神戸の大手コーヒー会社のアカデミーに通ったり食品衛生の勉強を重ねたりした。

 過疎・高齢化で檀家が減る中、寺は消滅の可能性が話題にのぼる。そのことに危機感を持つ龍弥さんは「そもそも寺はハードルが高いが、一気に低くしてくれ、誰もが来やすい場所になった」と喜ぶ。

 檀信徒(だんしんと)ももろ手を挙げてカフェに賛成した。総代の山村清さん(77)=京都府木津川市=は「昔のようににぎやかになってくれれば。楽しみや」。墓参りで月1回程度参拝していたが、オープン後はすでに5、6回は訪れているという。

 今年は浄土宗の開宗850年にあたる。英美さんは「檀信徒だけではなく、観光客も近所の人も集える地域活性化の拠点にしたい。宗派の壁も取っ払い、どんな方にも来てほしい」と望む。

 今後、モーニングも始める予定。営業は原則、金曜から月曜までの週4日(午前8時半〜午後3時)。インスタグラムのアカウント(@teracafesainenji_iga_temple)でカフェの情報を掲載している。(小西孝司)