熊本県立高校でいじめを受けた元生徒の男性(25)と母親(59)、2人の代理人を務めた板井俊介弁護士が27日、当初は学校が認めなかったいじめの事実を認定させるまでの経緯や成果、課題を話す報告会を熊本市内で開いた。公立学校で教諭を務める母親は「命を守る学校」にするための取り組みが必要と訴えた。

 男性は2015年4月に県立東稜高校(熊本市東区)に入学。間もなく、頭髪のことをからかわれる、バッグにしょうゆをつけられるなどのいじめをうけた。欠席を繰り返すようになった男性は同12月、担任教諭らにいじめを受けていることを伝えた。学校は翌月、関係生徒への聞き取りをした。

 だが、2年の新クラスでもいじめは続き、男性は転校を余儀なくされた。その後、男性へのいじめが認められるまでには、長い年月を要した。

 男性と母親は18年7月、県弁護士会に人権救済を申し立て、19年10月に県教委にいじめについての調査を求めた。だが20年3月に同校から開示された報告書には、いじめの有無をはっきりと示す記述はなかった。

 県弁護士会が、東稜高での男性に対するいじめは、いじめ防止対策推進法が定める「重大事態」に該当する疑いがあると認めるよう、県教委と同校に要望書を提出。ようやく同校は県教委に重大事態の発生を報告した。

 その後、第三者調査委が設けられ、22年10月に調査報告書が提出された。東稜高で男性へのいじめがあったことを認め、学校が早くに事実を把握していながらいじめと認めず、県教委への報告もしなかったことを非難する内容だった。

 こうした経緯について男性は、いじめの調査や認定について「誰が調査し、誰が報告を受けて判断するのかが、あいまいになっていることが問題だ」と話し「権限や責任を明確にしたルールづくりが必要だ」と述べた。

 板井弁護士は(1)男性のいじめについて、学校が重大事態と認定しなかったため、県教委に報告がなく、被害者側が調査を求める道筋がほぼ途切れたこと(2)県教委は規則で、いじめについての調査の主体を学校と規定しているが、調査の対象には学校の対応も含まれる。このため調査の中立性に疑問が生じる、と問題点を示した。

 母親は、学校現場では、いじめの事例や原因、対応について教員たちが学ぶ仕組みになっていないといい「命を守る学校であってほしい。そのためには、具体的な事例から学校や社会が学ぶ機会が必要です」と訴えた。(吉田啓)