能登半島を襲った地震から7月1日で半年が経つ。能登を代表する伝統産業の輪島塗も大きな打撃を受け、復興のめどは立っていない。それでも前へ進むため、石川県輪島市の漆器店が被災を免れた漆器をそろえて静岡で販売し、新しいスタートを切ろうとしている。

 JR静岡駅前の松坂屋静岡店北館で26日〜7月2日、輪島市の岡垣漆器店が輪島塗特別販売会を開いている。被害にあわなかった漆器やしまってあった掘り出し物など約150点を集めた。

 赤や黒のおわん、皿、茶托(ちゃたく)のほか、ワインカップ、金粉をほどこした器、赤富士などを描いた美術工芸品もある。通常より2割ほど安い価格で提供しているという。

 能登半島地震では輪島塗の工房や漆器店も大きな被害を受けた。岡垣漆器店は倒壊などを免れたが、市内では漆器づくりを担う職人の多くが被災し、自宅が焼失した人もいた。いまも避難したままだったり作業ができなかったりして、市内では本格的に製造を再開するめどは立っていない。

 「職人や漆器店が高齢化して減っているところへ震災が起きた。何軒戻ってくるかわからない」と、岡垣昌典会長(71)は厳しい状況を明かす。

 岡垣漆器店は1950年に創業し、会長は2代目だ。先代が行商で東京などの百貨店を回ったのをきっかけに松坂屋とも取引が始まった。県内では熱海の温泉街や沼津、浜松などでも商いをしていたという。松坂屋静岡店では30年以上にわたって販売会などを開いてきた。

 今年は地震から半年という節目で復興支援を目的に特別販売会を企画した。売り上げの10%は輪島漆器商工業協同組合に寄付し、漆工場などの修復、道具や資材の調達、工房運営などにあててもらうという。

 3代目の岡垣祐吾社長(44)は、長く交流してきた静岡の地から輪島塗復興のきっかけをつかむつもりだ。「生産が戻る見通しは立っていないが、少しずつ動き始めた。静岡の皆さんに現状を伝え、動き出すための旗を立てようと来た。ここで励ましの言葉をもらうことで職人の背中を押してもらえる」と話す。(大海英史)