朝鮮半島に住む広島・長崎の被爆者を約40年取材してきたフォトジャーナリスト・伊藤孝司さん(72)の写真展「在朝被爆者と平壌の人びと」が3〜7日、広島市中区の旧日本銀行広島支店で開かれる。北朝鮮や韓国で暮らす高齢の被爆者の写真のほか、人々の日常を写した181枚を展示する。

 伊藤さんは1985年から韓国を47回、92年から北朝鮮を43回訪れ、取材を重ねてきた。北朝鮮には98年からコロナ禍前の2019年10月までほぼ毎年、訪問してきたという。

 1945年当時、朝鮮半島は日本の植民地支配下にあり、広島・長崎では多くの朝鮮半島出身者が被爆した。被爆者援護法に基づく手当を支給するなど、在韓被爆者への日本政府の支援は2000年代に入り実現した。だが、国交のない北朝鮮に住む在朝被爆者は支援の枠外に置かれたままだ。

 展示の中に、在朝被爆者で被爆者健康手帳を持つことが唯一確認されている朴文淑(パクムンスク)さんの写真がある。幼少期に長崎市で被爆した。

 伊藤さんによると、朴さんは現地の「朝鮮被爆者協会」の副会長を務める。北朝鮮は06年に初の核実験を実施した。その後、訪朝した伊藤さんに「アメリカの脅威があり、仕方ない」と朴さんは苦しげに答えたという。かつて協会名の冒頭に付いていた「反核平和のための」の文字も、それ以降に消えたという。

 伊藤さんは「北朝鮮の被爆者だけが日本政府の支援の枠組みから外されている。高齢化が進み、健康状態の悪い人もいる。早急に何とかしなければならない」と話す。

 伊藤さんは被爆者以外も様々なテーマで北朝鮮を撮影しており、結婚式で歌う新郎新婦、産院で子を抱く母など人々の生活を写した約100枚も展示する。伊藤さんは「政治体制は違うが、人々の日常生活の基本は変わらない。同じように喜びや悩みを持って暮らしていることを知って欲しい」と話す。

 写真展は原水爆禁止広島県協議会(県原水禁)などでつくる実行委員会の主催。県原水禁によると、08年には在朝被爆者382人の生存が確認されていたが、朝鮮被爆者協会による中間報告(18年)では、調査済みの111人のうち半数近い51人が死亡していたという。県原水禁の金子哲夫代表委員は「在朝被爆者は忘れられた存在になっている。一人でも多くの広島の人にこの問題を知ってもらいたい」と話している。

 入場無料。午前10時〜午後5時。期間中は午後1時と3時に伊藤さんによる写真の解説がある。(柳川迅)