4月、朝日新聞による米軍への取材申請が認められ、ウクライナに送る「155ミリ砲弾」の生産を急ぐ米ペンシルベニア州の工場に入った。

 ロシアの侵攻を受けたウクライナの前線では2年以上、出口の見えない戦いが続く。そこで明らかになったのは、「大砲」「砲弾」という旧来の武器が依然、きわめて重要な意味を持つということだった。いま、ウクライナやそれを支える米欧は、この「ローテク兵器」の物量でロシア側に圧倒されつつある。

 「戦場で危険な目に遭っている兵士の危険が増すことがないよう、あらゆる部品を最高の状態で出荷することに全力を注いでいる」。工場の責任者、リチャード・ハンセン氏はそう強調した。工場は米陸軍が所有し、米防衛大手ゼネラル・ダイナミクスの系列会社が運営している。需要の高まりに応え、1年半ほど前から4億1800万ドル(約650億円)をかけた施設改修計画が進む。

 米国は戦場への直接介入は避けつつも、砲弾などの軍事支援を続けることでロシアに対抗してきた。しかし、第2次大戦以来ともいわれる砲弾の撃ち合いが続き、ウクライナ側に立つ米欧は深刻な砲弾不足に直面した。米国内の政治対立が響き、特にこの半年は補給が滞った。

 米欧、ロシアの両陣営とも、砲弾の生産・補給力の数的優位をどう生み出すかが、今後の戦況や外交交渉の条件、世界の安全保障環境を大きく左右する事態になっている。(スクラントン=下司佳代子)