ベトナム戦争で米軍が使った枯れ葉剤の被害を撮り続けてきた映画監督の坂田雅子さん(76)=群馬県みなかみ町=が、書籍「枯葉剤の傷跡をみつめて」を出版した。

 これまで取材で出会った人々の声をまとめるなどした内容で、「過去はどんどん忘れ去られていく。映画さえもそう。文字にして、少しでも歴史の中にあった出来事を思い出せるきっかけになってほしかった」と話す。

 坂田さんは大学卒業後に写真通信社で働き、2003年から映画制作を始めた。これまでに作品5本を発表し、うち3本が枯れ葉剤をテーマにしたものだ。

 映画を撮り始めたきっかけは、米国出身でフリーカメラマンだった夫のグレッグ・デイビスさんが他界したことだった。ベトナム戦争に従軍経験のあるデイビスさんは03年、胃の不調を訴えて入院。2週間後に肝臓がんで亡くなった。彼の死にベトナムで浴びた枯れ葉剤が影響しているのではないか。真実を知り、記録したいと体が動いた。

 「花はどこへ行った」(07年)、「沈黙の春を生きて」(11年)、「失われた時の中で」(22年)でベトナムの枯れ葉剤被害を追った。また福島原発事故を契機に、核をテーマにした「わたしの、終わらない旅」(14年)、原発ゼロを決めたドイツを追った「モルゲン、明日」(18年)と精力的に活動してきた。

 そして22年、ベトナム取材の集大成として「失われた時の中で」を公開した。戦争から長く経っても、被害が人々の体に刻まれている事実やそのくらしを映した。

 本では、デイビスさんや障害のあるベトナムの子どもたちを多く見てきた産婦人科医、障害があるベトナムやアメリカの人々の証言などを通して、枯れ葉剤が人々の生活に与えた影響を見つめた。後半には、著名人との対談を掲載。長く親交のある歌手の加藤登紀子さんや山極寿一・前京大総長、朝日新聞の藤えりか記者らに、枯れ葉剤や平和への意見を聞いた。

 坂田さんは「枯れ葉剤に限らず、原爆や原発など人間の科学技術は地層や人の体に負のものを残した。私たちがどういう時代を生きてきたのか、してしまったことを繰り返さないためにどうしたらいいかをみなさんと今立ち止まって考えたい」と話している。税込み1870円、問い合わせは花伝社(03・3263・3813)。

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 坂田さんはベトナムの子どもたちを支援する「希望の種奨学金」で一口3千円から寄付を受け付けている。詳細はホームページ(https://www.masakosakata.com/seed_o_hope.html)。振込先は三菱UFJ銀行(0005)青山通り支店(084)普通(0006502)。振り込んだら坂田さん(masakosakata@gmail.com)にメールで連絡を。(川村さくら)