子どもの数が減り、人口減少が止まらない。静岡県内では伊豆地域などで将来の「消滅可能性」が指摘され、静岡市など都市部でも対応を迫られている。9日告示、26日投開票の静岡県知事選の主な立候補予定者は対策として「子育て支援」や「雇用増」を強調するが、女性の活躍推進などには力強さが見えない。

 「魅力ある雇用の場をつくらないと若い人たちが定着できない」。前浜松市長の鈴木康友氏(66)は2日の公開討論会で、企業誘致とベンチャー企業支援を強調した。市長時代に国の特区制度を使って343社を誘致した政策を広げるという。

 共産党県委員長の森大介氏(55)は中小企業を支援して働き口を増やす考えだ。さらに「働きに見合った収入が得られること」がかぎだと指摘する。県内の最低賃金が隣の愛知、神奈川両県より低いとして、引き上げをめざす。

 元副知事の大村慎一氏(60)は産業政策として、デジタル技術の推進を挙げた。「中小企業の生産性向上のお手伝いをする」と述べ、人手不足に悩む中小企業に対し、デジタル技術導入を支援する。県内の大学と連携して「静岡デジタル大学」をつくり、人材育成にも力を入れるという。

 子育て支援では、大村氏は2人目の子どもの保育料無償化を掲げる。静岡市などが導入しており、県の事業を見直して財源をつくり、市町と負担割合を話し合うと主張する。子育て支援を推進する組織もつくるという。

 森氏は、18歳以下の子どもの医療費、小中学校の学校給食、子どもにかかる国民健康保険料の均等割額の無償化を打ち上げた。放課後児童クラブの支援など「県がやれることはたくさんある」とも述べた。

 一方、鈴木氏は学校給食の無償化について「財政的に大変厳しく、いったん始めるとやめられない。受益者負担の問題もある」と疑問を呈した。「子育て世代にとって教育環境の充実は大きな関心事」と述べ、小学校低学年の少人数学級や不登校対策、外国人の子どもの不就学問題に取り組むとしている。(青山祥子)

     ◇

 県の人口は2005年の国勢調査で約379万人を数えたが、今年4月の推計人口は約353万人まで減っている。人口減少対策は待ったなしだ。

 有識者でつくる人口戦略会議が4月24日に発表した「消滅可能性自治体」に、県内は伊豆地域を中心に9市町が挙げられた。20〜50年までの30年間で若年女性(20〜39歳)の人口が50%以上減少し、まちの存続が危ぶまれるという。

 人口減少にはさまざまな要因があるが、同会議の特徴は若い人が希望しても子どもを持てない状況を重視し、若年女性の人口減少を分析している点だ。女性が働きやすく、暮らしやすいまちをつくらなければ、減少に歯止めはかけられない。

 政令指定市の静岡市でも、市のチームが1月にまとめた報告では、15〜49歳の女性人口が00年の約16万5700人から20年には約12万7900人に減っていた。総人口に占める割合も政令指定市の多くが20%を超えているなか、18・4%と低かった。

 チームは、住みにくさや働きたい仕事がないといった背景を調べている。また、「結婚や子育てを思い描けない」「賃金の引き上げ」「働き方の柔軟化」などを議論のポイントに挙げた。

 上智大の三浦まり教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が公表した24年の「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」によると、静岡県は政治分野では16位だが、行政は33位、教育は37位、経済は42位といずれも下位にある。女性管理職の底上げ、大学進学率や賃金の男女格差の改善などが指摘されている。

 川勝平太知事は3月、「男の子はお母さんに育てられる」と語った。子育ては女性の役割と受け取られかねない発言だったにもかかわらず、県議会などから批判の声は少なかった。知事選の立候補予定者も産業振興や子育て支援策は訴えるが、男女格差の改善や女性が希望を持って暮らせるまちづくりへの具体策は目立たない。(大海英史)