石川県立看護大学(かほく市)は、能登半島地震で被害が大きかった奥能登に最も近い大学だ。真田弘美学長(67)は4月の入学式で、防災や災害時の対応に関する教育を強化する方針を示した。看護師や保健師ら医療従事者を育てる大学としての考えを聞いた。

 ――災害に関してどのような教育を行ってきましたか。

 2023年度までは、4年生の前期に「災害看護論」という必修講義を行ってきました。災害時の急性期看護のあり方や、要配慮者への影響、感染対策など概論的な内容が中心の座学です。

 しかし、実践的な現場に出る機会はなく、講義で中心的な役割を担ってきたのは外部の非常勤講師でした。正直、大学としての強みとまでは言えませんでした。

 ――能登半島地震を経験し、地元の大学として何が必要だと感じましたか。

 学部生と大学院生の約400人のうち、2割は能登半島出身です。実家のなりわいが崩れて経済的に困窮する学生や、自宅が全半壊した学生もいます。幸いにも亡くなった学生はいませんでしたが、親族を失った学生もいます。

 発災当日、珠洲市にいた保健師の育成を担う教員は、倒壊した隣家から住人を助け出し、そのまま家族と一緒に避難所に行ったそうです。ただ、避難所で何をしたらいいのか、どういう行動を取るべきなのかが全く分からなかったそうです。

 保健師や看護師、教員として30年の経験があるにもかかわらずです。もし私が同じ状況に直面していたら、この教員と同じ状況に陥ったのではないかと思います。

 学生はもちろん、教職員も災害現場で役に立つ幅広い知識を持つ必要があると痛感しました。今年度からはまず、それぞれの授業に災害に関する要素を意識的に取り入れるとともに、防災士の資格取得を考えている人を可能な限りバックアップする体制をとりたいと考えています。

 ――研究面の充実について考えはありますか。

 全国的に見ても、「災害看護学」という分野を研究している大学はそれほど多くありません。それでも過去に大規模な災害を経験した兵庫県や宮城県、原子力関連施設が多い福井県には災害看護学を研究している大学があります。

 石川県立看護大には博士課程の大学院があります。被災地への具体的な支援方法や自助・共助のあり方などを研究する講座を、2、3年後をめどに開設できればと考えています。

 ――学内だけでなく、学外へ還元したいことはありますか。

 奥能登地域には重篤な患者を受け入れる3次救急を担う医療機関がありません。奥能登で働く現役の看護師らに、3次救急のノウハウを伝えられる場を提供できないかと考えていきたいです。

 今回のような大規模な災害は、多くの学生や教職員、現役の看護師らにとっても初めての経験だったと思います。被災した教職員や学生がいる大学だからこそ、次世代に経験を伝えるためにも、被災時の看護モデルを実証的に研究し、課題を解決しながら構築していく責任があります。

 そして、強い志をもってこの地域に貢献する看護師や保健師、助産師を育てることが、大学としての役割だと思っています。(聞き手・安田琢典)

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 さなだ・ひろみ 1956年、金沢市生まれ。聖路加看護大(現・聖路加国際大)を卒業し、聖路加国際病院などで看護師として勤務した後、金沢大医学部保健学科教授や東大大学院医学系研究科教授などを歴任。同研究科付属グローバルナーシングリサーチセンターの初代センター長。2022年4月から現職。専門は老年看護学、創傷看護学。